白怜

4/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「なんで、わかったの?」  自然と口角が上がる。この状況が楽しくて仕方なかった。  床と天井が回っている。四肢をつけて平衡感覚を保とうと思ったが、効果はなかった。  目蓋をきつく閉じても効果はない。  護身用に持っていた小さな針が僕の服の袖から落ちる。  彼女が僕の耳朶に触れた。囁くように彼女が言う。 「私達はね、標的の正体が完全に掴めるまでじっくり観察してるの。あなたがここに一酸化炭素を仕込んでることも、トイレにスイッチがあることも、家具や道具に色んなものが仕込まれてることも…」  咳が止まらない。喉が熱い。胸が変な動きをしている。その他諸々の症状も理解できないまま僕は棚に凭れ、横たわった状態で彼女を見上げた。ただ、常軌を逸した痛みでさえ、僕の興奮は押さえられなかった。  いや、逆か。僕は痛みを忘れるようにただひたすら叫んでいた。 「あぁ嬉しい、僕やっと、これで、皆と遊べる嬉しい嬉しいお姉さん、僕すごく嬉しい」 「そう、嬉しそうでなにより」 「お姉さん、僕の演技、うまかった?」 「全然。もっと練習した方がいいわよ」  彼女は僕の手が届かない位置で、僕を見下ろしていた。 「お姉さん、僕のコレクションお姉さんにあげる」 「ごめんなさい、趣味じゃないの」 「お姉さん、僕の道具使って」 「気が向いたらね」  僕はなんだか悲しくなった。僕は彼女の思い出にも残らない。そう思うと涙が溢れた。  口の中で血の味がし、痛みで気を失いそうになる。  発声するとげひゅっという音が鳴り始めた。終わりが近いのは経験で分かる。声をさらに張り上げて、彼女を見た。 「お姉さん」 「なあに?」 「さいごに、お姉さんの名前、おしえて」  ぜひゅっと喉から空気が漏れる。彼女は僕の目を見ながら口を開いた。 「白怜(ハクレイ)」  はくれい。  その言葉を最後に、すべての感覚が途絶えた。  
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!