第3章

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「……えっ?…冗談、だよね?」 ヒナノが硬直する。会話する2人を見ていた冒険者達がざわつくのがわかる。 「冗談じゃない、本当の事だ。今日で一旦冒険は最後だ…だから、別れの挨拶を言いに来たんだ」 「はぁ!?意味わかんない、なんでなの、なんでなの!?」 「…言えない。すまん」 いつもはポジティブで明るいヒナノだが、黙っちゃいられない。声を荒らげるヒナノに、周囲が更にざわめいた。 「…う、嘘…。理由を教えてよ!何かどうしようもないことなの?私に力になれる事は無いの?まさか…もう、一生会えないとかないよね?」 「どうしようもないというか…俺自身が決めたことだ。ちょいと事情があるんだよ…。一生かはわからんが、暫くは冒険はやめだ。ヒナノ、お前はお前で頑張ってくれ」 「ハ、ハルカ自身が決めたっ…?何があったの、ねえ、ハルカっ」 「ヒナノ」 真っ直ぐ見つめられて、ヒナノは泣きそうになりながらもハルカの次の言葉を待つ。 「最後に…俺と、勝負しないか?」 「勝負?…手合わせってこと?」 「ああ、そうだ。お前とはずっと、互角の戦闘能力だった。だからこそ…最後に、決着をつけようと思う」 まただ。 また、ハルカはこんな事を言う。 戦い好きのハルカは。戦闘狂のハルカは。最後も、戦いたいと。 ヒナノに声をかけたのは、ヒナノの戦闘能力が気になったから。ヒナノと行動していたのは、所詮戦いのためだけの仲間が欲しかったから。共通点が多く、何か仲間意識を感じて、参考になる戦い方を探していたから。 ___ハルカが好きなのはヒナノではなく、ヒナノの戦闘能力。 「…ハルカはいつも、戦いのことばっかり…ひどいよ…たまには、私自身の事も見てよ…私の事…見て、よ…!」 怒りが沸点に達したヒナノは、ハルカに向かってびしっと指を突き付けた。 「いい!?ハルカ!あんたがそんなに戦いたいんなら、私戦ってあげる!でもね、勝つのは私だよ!勝てば…少しくらい、私のこと見てくれる?気にかけてくれる?戦闘能力じゃなくて、私のこと見てくれる?これらをあんたが約束出来るなら、私は正々堂々戦うよ!冒険をやめるっていっても、やめるまでのほんのちょっとの時間、私を見てよね!!」 周囲の冒険者達の視線が、ハルカに集まる。やがて辺りは沈黙に包まれ、重い空気が流れた。 皆が、ハルカの返答を待っている。ハルカはぽかんとしていたが、やがて言った。 「あ、ああ…だが、勝利は譲れないぞ」 「ふん、私が勝つもんねっ!」 そう言うと、ヒナノは光の中に消えた。冒険者同士のバトルが出来る会場へと向かったのだ。 ハルカは、ヒナノの後を追うようにして魔石を使用した。周囲の冒険者達も、便乗するかのように魔石で会場へと赴く。そこそこ有名な「双子の冒険者」であるハルカとヒナノ、真剣勝負はやはり気になる。 さあ、負けられない戦いが始まる!!
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