せめてもう一度だけ

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「ママ、ありがとう。」 天使がにっこりと笑う。 「ああ、この子の精神が限界に近いから、急ぐね。 ママ、僕はね、だから幸せだったよ。 知りたかったことを知ることができたから。 それとママがずっと優しかったから。 ママを悲しませてるのはほんとうに申し訳なかったけど、 僕はずっとずっと幸せだった。」 「頭が痛いとき、ママが手のひらをずっと痛いとこに当ててくれてたでしょ。あれほんとに気持ちいいんだよ。 気持ちいいなあってとても嬉しかった。」 「少しでも食べれる時は、プリン買ってくれたよね。美味しかったなあ。」 「生きてるってやっぱり楽しいよ。食べて感じて、喜んだり、 愛したり、時には怒ったり。悲しみも。 全部全部たいせつな宝物。 どんな感覚も気持ちも大切にして」 「怒りや悲しみも深く深く味わったら、 きっともういいかなって思えるから。」 「そしたらまた笑って」 「もう時間だ。ここから出なくちゃ。 ママ、最後にこれだけ。 ありが・・・」 「待って!」 私はただただ泣きながら、私の子供だった天使の話を聞いていることしか できなかった。
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