せめてもう一度だけ

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男性は、ほんの5分間の憑依でずいぶん疲弊した様子で、 ぐったりと椅子にもたれかかって、ゆっくりと目を開けた。 「・・・いかがでしたか?」 椅子にもたれかかったせいで、前髪がサイドに流れ、灰色の瞳がよく見えた。 そう言えば髪も色素が薄い。この特殊な能力と関係があるのだろうか。 私は目の前に置かれたままだったボックスティッシュから、ティッシュを抜き取り、今日何度目かの顔を整える作業をした。 重ねて男性が言葉をつづけた。 「まさか天使だったとはね。シャッターを切ったときあまりの まぶしさに失明したかと思いましたよ。」 ああ、それで目を細めていたのか。 鼻をかみ終わり、少し落ち着いたところで男性の問いに応える。 「はい、驚きました。今もまさかって気持ちです。」 「でも、写真を撮っていただいて、お話までさせていただいて、 ほんとうによかった。 あの子は幸せだったと言ってくれた。 こんなことしかできないと絶望の中で置いた手のぬくもりを 嬉しかったと言ってくれた。 何より、私を選んで産まれてきてくれたんだと分かった。 ほんとうに私は救われました。」 「それはよかった」 初めて男性は、微笑みを見せた。
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