あなたのそばにいたくて

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あなたのそばにいたくて

お兄ちゃんに呼ばれて、 わたしはこの喫茶店の扉の前まで来た。 今ではどんなドアや扉もスイスイ・・・ていうか、なんならドアじゃなくたって壁もすい~っとすり抜けることができるんだけど・・・。 喫茶ゆうげんの入り口の扉。 古い木でできた重そうな扉はつやつやとしていて、 蔦みたいな草が彫刻されていて、一見するとただの素敵な古い扉。 でも、なんとなくわかる。 この扉は多分すい~っとは通り抜けれない。 そんで壁から中に入ることはできない。 手で壁を触ろうとすると、触ってる感触はないのに、 そこで手が止まっちゃうから不思議。 そして扉に手をあてるようにすると、じりじりとした抵抗を感じつつ 少しずつ中に吸い込まれていく感じ。 「こわっ」 反射的に手をひっこめてしまう。 でも、痛みとかは感じないし、なんとかいけそう。 中でお兄が待ってる! 最後だし絶対会いたい! 私は息をとめて(もうとまってるんだけど)覚悟を決めて頭から 扉につっこんでった。 時間にして10秒くらい、抵抗を感じながら進むと、 突然すっと体が軽くなって私はゆうげんの店内にいた。 見回すとテーブル席にお兄がいた。 髪の毛が明るい茶色なのはあいかわらず。でも小指に指輪をしている。 わたしのお気に入りだったシルバーリングだ。 閉じられた目からは涙がボタボタと流れていた。 お兄の対面には前髪を伸ばしたお兄より年上のおにいさんがいて、 席から立ちあがってでっかいカメラをわたしに向けて構えている。 こ、このおにいさん、 白いシャツに黒いベスト、蝶ネクタイがめっちゃ似合ってる!! なんだかドギマギしていると、 おにいさんの思念がわたしに流れ込んできた。 ・・・あなたのお兄さんに頼まれて今からあなたの写真を撮ります。 よろしくお願いします。 え!?あ、写真? ちょっと待って待って。 ハイ、ピース!! かろうじてポーズをきめたところで、容赦なくカシャッカシャカシャッと 連写されてしまった。 ・・・僕に憑依することでお兄さんとお話ができます。 ただあまり時間はありません。 お兄さんに直接伝えておきたいことがあるなら、 お早めに・・・ え?!憑依?霊が憑依するとかっていうあの憑依?? わたしやり方わかんないけど、どうしよう? 焦っていると、おにいさんが今度はお兄に向かって口を開いた。 「写真を見る余裕は・・・なさそうだね。 これから妹さんが僕に憑依するよ。 少しの間だけど、話ができるようになるから、泣き止んで。 最後のチャンスだよ、しっかりして。心残りのないようにね」 そう言ってカメラをお兄にもたせた。 あ、そういえばお兄・・・ おにいさんに気を取られて、うっかりお兄の存在を忘れてしまって いたけど、見るとお兄はずっと目を閉じたまま号泣していた。 「さゆ~ぼんどにごめっ、おまえがごんなにはやぐじぬなんてっ」 わっ!お兄すごい顔! あたふたしているうちに、おにいさんの思念が優しく私を自分の中に導いた。 ・・・手を差し伸べて微笑んでくれる王子様みたい・・・ 思わずうっとりしながら、すとんっという感覚とともに目をあけると、 目の前にはギャン泣きしているお兄がいた。
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