せめてもう一度だけ

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その声に驚いて私は反射的に目を開けてしまった。 男性はカメラを構えたまま苦しそうに目を細めている。 「どうしたんですか?!」 声をかけてもファインダーを覗きこんだまま、男性は硬直したように 動きを止めて、驚愕の表情を浮かべていた。 私がここへ来て、彼と顔を合わせてから今まで、 男性が表情を変えることはなかった。 子供のことを語った時も、私が涙と鼻水まみれの顔で見つめた時も 驚きも哀れみも見せなかった。 四十路女の鼻水まみれの顔は、なかなかすごいものがあったのではないかと 後になって思ったのだが・・・ その男性が隠し切れない驚きを浮かべて、ファインダーから目を 離さないので、私はおずおずとファインダーが向いている方を見る。
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