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こちら側
僕は、おやつのクッキーを口に運びながら気が付いた。またあの子だ。窓の向こうで僕と同じようにテーブルに腰かけてクッキーを食べようとしている子がいる。あの子はよく見る。鏡とか窓とかの中から決まってこっちを見ている子だ。
僕はいつものように笑いかけた。なんとか友達になれないだろうか。僕は食べるのをやめ、窓に近付いた。空いている左手で窓に触れようとしたところでいいことを思い付いた。そうだ。もうひとつクッキーをあげたら仲良くなれるのではないだろうか。右手のクッキーとあの子の顔を見てわくわくしてきた。
僕はテーブルに向かった。ちょうど僕が座ってた辺りにクッキーがもうひとつ入ったバスケットがあるのだ。バスケットから最後のひとつを手に取ったが、少しためらってしまった。実はこれは、後で食べようと残しておいたのだ。両手のクッキーを見て口惜しく思った。やっぱりやめてしまおうか。いや、自分が欲しいものをあげてこそ友達になれるというものだ。自分が欲しいものは分けずに、どうでもいいもので友達になろうなんて虫がいいもの。
僕は意を決して窓の方を向いた。もちろん、両手は体の後ろに隠している。なんといっても、プレゼントにはサプライズは欠かせない。どんな顔をして喜んでくれるだろうか。あの子もこっちに近付いてきているし、向こうも仲良くなりたいのかもしれない。パッと広がるあの子の笑顔を思い浮かべて、小さな笑いがこみ上げてくる。
窓に十分近くなった。さあ、待ちに待った瞬間だ。僕は口を開いた。
「このクッキー欲しい?」
シャッ。
僕が話している途中で窓が白くなった。
「暗くなったらブラインドしてって言っているじゃない。」
ママが窓のスモークをつけたのだ。いいところだったのに。ママはいつも間が悪い。
それより、なんだか窓に近付いたとき、あの子の顔が不機嫌そうに見えたのが少し気になった。でも、気のせいに違いない。今まで、鏡に映った自分が僕と違う行動をしている所を見たことなんてないのだから。
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