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ルイス・フロイスという男
世の中には適材適所と言うものが存在する。
戦場という乱世にて勇を振るう者もあれば、治世の世において文才を振るう者もいる。そんな人間の才能、才覚を見抜いて適した場所に割り当てる。これこそが上に立つ者に必要な能力の1つだ。
下手すれば1番必要な能力かも知れない、信長はその辺が上手かったように思う。当時小者だった豊臣秀吉を起用したり、長年仕えて来た譜代の家臣を安安と辞めさせたり大分人事においてはキチガイなことをしている。
しかもそれが悉く成功しているのだ、信長は令和のサラリーマンとしても上手くやって行けそうだな。
つまり何が言いたいのかと言えば、私はそんな作業をするのが好きだということだ。
理由?人に厄介ごとを押し付けられるからね!!
と言うことで私は珍しく文を書いていた、宛先は勿論清吾に紹介した宣教師だ。
彼のことについて紹介するとしよう、その名もルイス・フロイス。
私でも名前を知っているレベルのスーパー宣教師であり、この世界でもフランシスコ・ザビエルと並び戦国史に名を残すであろう宣教師の1人だ。
彼は日本語が堪能で、親日家だ。
日本のキュウリを美味しそうに食べている姿はとても可愛らしい。日本の農学にも深い理解があるし、村を救うなど片手間でやってくれるだろう。
彼は史実ではポルトガルかどっかの宣教師で、日本人についてのレポートは戦国時代の貴重な研究資料になっていた筈だ。
ガスパル・ヴィレラや日本人修道士ロレンソ了斎らとともに布教活動を行い、通訳としても活躍している。
一度京で会っただけなのだが、その時に得た話はとても興味深いものだった。
ただ手紙を出したところで、果たして来てくれるかなぁ?
あんまり活動が上手く行っている印象が無いのだ、史実だとキリシタン大名などバカバカいるイメージなのだが、この時代ではまぁそこそこと言った印象だ。
もしかしたら日本での布教を諦めている可能性すらある。
これは私の予想なのだが、今川が天下を取ったことによってキリシタンは動きづらくなったのではないか?
兄義元は一向宗に対して優遇措置を取っていた、これが天下を取ると言うことは各地にその考えが広まると言うことだ。一向宗が反乱を起こさない、顕如も大人しくしているだろう、するとキリスト教はどうなる?
織田信長と対立した本願寺、顕如が反乱を起こさないと言うことは一向宗はその勢力をそんなに拡大させられないが、同時に縮小することもできない。
キリスト教が史実においてあそこまで広まったのは一向宗に力が無くなったからと言う見方や、信長が一向宗にあきあきし、代わりの宗教を望んでいたからというものもある為、一向宗が混乱を起こしていない場合のキリスト教は力がふるえないということになる。
そもそもどの国もそうだが、外から来た宗教に対して人は厳しいのだ。
誰なんだ日本は世界一宗教に寛容な国とか言った奴は、馬鹿なんじゃ無いかと鼻で笑いたくなる。
元々日本というものは八百万の神を祀って来た神道が主流だった、しかし外から仏教が入って来たことで蘇我氏と物部氏という当時の有力な豪族が戦争を行うと言う大乱にまで発展した。
キリスト教もその例に漏れない、島原天草の乱なんて中学生でも知ってる戦争の名だが、あれも大元を正せばキリスト教のせいだ。
さて、この時代でキリスト教は大乱を起こすのかな?
話が逸れてしまったが、ともかく私はフロイスを呼ぼうと思う。
朗らかで良い男だ、きっと協力してくれるだろう。
8割...いや、7割ぐらいは協力してくれる筈だ、多分。
それに、今気づいたのだが私の名前で認可を与えれば良いのでは無いか?
フロイスが甲斐国のある村で行う一切を保証する、良い案だと思う。限定的なものではあるがフロイスも自由に手腕が振るえた方がやりやすいだろう。
もし来てくれたら、そうしよ。
「ご隠居サマ、お会い、しとうございました」
「私もだフロイス、悪かったなこんな田舎にまで来てもらってしまって」
「いいえ、ご隠居サマ。我々、南蛮ジン、みんな、厳しい。権力シャ、氏真様、相手して下さらない、ご隠居サマ、我々、優しい」
フロイスは2つ返事で来てくれたようだ、可愛いよな。宗麟の気持ちがわかるよ。宣教師たちは基本的に貪欲で欲望に忠実だ。自分の意見をどんどん言うし、押しが強い。
フロイスは私が良くイメージする南蛮人そのものだった、それに慶次にも見劣りしない大きさと、それに似合わない線の細さは私にとってもやしを連想させる。
「ご隠居サマ、救って欲しい村、ココですか?」
「そうだ、フロイス。お主の知見を頼りにしたいのだ、この村の住人の抱える問題は深い。救ってやってはくれぬか?」
ここは、清吾が名主を勤めていたと言う村だ。
確かに田畑は荒れ、家は寂れている。むしろ今まで良く一揆が起きなかったな。
私の後ろにはビクビクと震えている清吾の倅がいる。
こいつが倅かぁ、そりゃ田畑も荒れるわ。
「おおおおおおお鬼だ、この村に何故鬼がいるのですか!?」
「私が呼んだ」
「ててててて輝宗様が!?やはり輝宗様も鬼ということで」
いや、超無礼だなこいつ!
「私、鬼違います、貴方たちの村、救う、救世者です」
「イヤァァァァァシャベッタァァァァァ!」
たちまち、この場にいた清吾の息子は逃げ出して行く。怖いのはわかるが堂々とせんと...
この村が荒れた理由がわかった、もう直ぐ40になるのに村の長という責任感が全く無い。
一揆を起こそうとしたのはあいつだった筈なんだが、慶次の殺気に当てられたのか今ではとんだ腰抜けになっている。
あれじゃ駄目だな。
まぁそんなことはどうでも良い、私の隣には清吾がいる、まぁ基本的には清吾に応対させよう。
「フロイス、こんな調子だが、よろしく頼む。」
「勿論です、ご隠居サマ。布教の許可を頂ける、喜んで。」
「うむ」
この時代、布教を行うには権力者の許可、もしくは手土産が必要となる。今川はキリスト教に対して厳しかったが、私は今回試験的に甲斐国の村でも布教を認めることにした。
「この村の全権とはいかぬが、この村が発展するありとあらゆる行動を私の名の下に保証しよう」
取り敢えずこう言っておけば良いだろう、こう言えば皆キラキラした目で私を見て一生懸命頑張ってくれるからな。
ほら、予想通りフロイスも目が輝いている。こういう目をした奴は安心だし任せられる。
「ま、誠で、ございますか?」
「うむ」
フロイスの顔が一瞬歪んだ気もするが、恐らく笑いを堪えたのだろう。表情豊かなフロイスにしては珍しい。
嬉しいのはわかるが、堪えなくても良いのに。
「私は旅を続ける、後のことは頼んだぞフロイス。善は急げと言うでは無いか、色々と終わらせるなら早い方がいいだろう?」
「!!!はい、ご隠居サマ、お任せ、下さい」
こうして、私は予定こそ狂ったものの、旅程を延ばしながら真田の領地へと向かうこととなった。
その後私がこの村の様子を知るのは真田の領地についてからとなるのだが、それはまぁ後々話そう。
◇◇◇◇
ルイス・フロイスは輝宗に呼ばれた意味を考えていた。
この村はフロイスが見て来た中でも確かに貧しい部類にある村だ、しかしただこの村を救えということであれば輝宗でもできるだろう。
輝宗ほどの人物であればそれが可能だし、もし旅を続けなければならない理由があったとしても自分に頼む必要性は無い。
輝宗からの頼みであれば、たとえ暇をもらおうとも輝宗の元で働きたいと願うものがこの日本中に沢山いる。
そのことをフロイスは知っているからだ。
様々な思考の結果、フロイスはこれを輝宗が授けてくれた自分へのチャンスだと解釈した。
ルイス・フロイスは宣教師だ、キリスト教の教えを広め、日本をキリスト教の国にすることを目標に活動を続けている。
その願いは恐らくどの宣教師よりも強いだろう、その為今川の中でも絶対の権力と市民からの羨望を受けている輝宗をキリスト教に改宗できればその存在は大きいとフロイスは考えていた。
しかしその想いは早々に打ち砕かれることになる。
輝宗は確かにキリスト教に深い興味を抱いていた、しかしそれは好奇心では無い。輝宗はまるでキリスト教の教えを網羅しているようにキリストの教えを読み解いて行くのだ。
そんな輝宗の前にフロイスは、答えを全て知っている優秀な生徒に勉強を教える家庭教師のような心持たなさを覚えていた。
その知識量、その見知を前に、ゴアで絶対の評価を受けた秀才であるはずの彼も白旗を上げざるを得なかった。
結果的に、輝宗を信徒にするというフロイスの計画は崩れたと言えよう。
だが、この国を神の国にするという夢が潰えた訳では無い、この国を神の国にし、イエズス会の傘下に加えることで明を攻める際の尖兵にさせるという夢を果たすまで、フロイスの活動は止まらない。
そしてそのチャンスを輝宗は与えてくれたのだとフロイスは確信していた。
(この村にある問題は2つ、その1つを解決する手段はただ1つしか存在しない...しかもここをキリスト教を教え広めるという目的にそこは邪魔。イッセキニチョウとはこのことか)
フロイスは自分の考えが真実であることを輝宗からの言葉を受けて確信する。
この村の全権の譲渡、その価値は領主ほどでは無いにしろ代官より上の立場を手に入れたに等しい。事実上フロイスはこの村を掌握したのだ。
「私、ここに、神の国、作ります」
「神の国?一体どういう意味だい?」
フロイスが思わず口に出してしまった言葉に清吾が反応する。
「言葉の通りです、花が咲き誇り、人々、笑顔なる、素晴らしいリソウキョウ」
「ふーん、そうか。まぁあんたはあの輝宗様に呼ばれた男だ、間違いはねぇだろう。よろしく頼むぜ!」
セイゴ、そう呼ばれたこの村の長らしい男たちがそう言う。
後に話を聞くと、どうやらこの村の者たちは輝宗に対して反乱を起こそうとしていたらしい。
罪深い者たちだ、そうフロイスは一蹴した。
あの方が、農奴の一揆程度のことに気づかない筈が無いのに...
「勿論、私、全力、頑張ります!」
フロイスは当分の間、村の子供や清吾と打ち解ける為に村中を巡ることになる。
まずは信頼関係を気付くこと、次に村の人々にわかりやすい利益を提供すること。
これが、信頼を得る秘訣だ...
フロイスは、自らの服の中にある何かをゴソゴソと探る。
善は急げ。
輝宗様はそう言った、つまり何か早く行わなければならない理由があるのだろう。
今夜決行しよう、そう私は決断する。
異教徒は、皆殺しだ。
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