閑話・越後百姓談話

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閑話・越後百姓談話

〜とある百姓〜 いや、本当に凄かったんだよ! 俺はほら、何て言ったかな? そうそう、()()()()()ほーだっけな?そんなのの運搬を手伝ってたんたが。 急に千代様が上杉方につくーとか言ってな、まぁ俺は千代様が命じたままに動くだけなんだがそんな時に輝宗様の闘いを見たんだ。 凄かったぞ〜輝宗様、伊達男ってのはこういうことを言うんだな。 銃弾が飛び交う中、まるで散歩するみてぇに歩いてたんだ。敵が目の前に来たんだが、ソイツは殆どが輝宗様の家来衆に倒されちまった。 あれもすげぇよな、島左近様か! ご隠居様の家来らしいんだがすげぇのなんの!並み居る敵をバッタバッタと倒す様はまさに化けもんか?それとも熊だなありゃあ! なんか近くにもう1人男がいた気がするが...気のせいだな! そんな中、俺は見たんだ。杉浦様...あぁいやもう玄任でいいのか。 そいつの家来衆に知り合いのお侍様がいてな、俺たちに刀の振り方とか教えてくれた人なんだが、その人が輝宗様の家来衆の囲みを抜けて輝宗様に向かって行ったんだ。 鬼気迫った表情だった、お侍様も必死だったんだな。 だが、次の瞬間勇猛で知れたお侍が怯えたような顔をしてな、次の瞬間には爆発して吹き飛んで行ったんだ! ん?お侍様なら向こうにいる筈だが...なんか用かい、アンタ? 〜元杉浦玄任旗下の侍〜 あぁ、その人物なら確かに私だとも、今は傷の療養の為に村に世話になっている。 あれは一体何だったのだろうな...輝宗様は徒手空拳であった、それで私は吹き飛ばされた。 輝宗様の手を確認した、火薬のようなものを仕込んでいる素振りは無かったしそもそもあのお方は何かを投げた訳でも無い。 まぁ、何を持っていてもどうでもいいがな。私は勝負の前にすでに負けていたのだから。 私はあのお方の顔を見て仰け反ったのだ、何で吹き飛ばされたのかは不明だがそれだけは間違いあるまい。 顔を何で表すか、だと?ふむ、難しい質問だな。 怒っていたのは間違い無いだろう、ただ私が想像する怒りの表情とは少し違っていた。 静かに怒るというものに恐怖を覚えたのは後にも先にもあれだけよ、まだ私の妻に怒鳴られた方が可愛げがあるというものよな。 ん?これからか、確かに上杉様は我らの免責をお認めになられた。 だがここに仕官の道は無い、故に北へ行こうと思う。 伊達輝宗様が人を集めているようだ、なんでも戦らしい。 手柄を立てねばな... 〜とある老百姓〜 この阿呆共が! あぁすまんすまん、若いのを叱りつけている途中でな。 で、何を聞きたいと?あぁ一揆の話か。 私は行くなと言ったのに若い衆は千代様をお守りすると皆飛び出していってしまった。 勿論、村の中にも死んだ者がいる。だがまぁ他の村よりはマシだ、うちの村で死んだ奴が少ないのは千代様旗下の隊に入ってた者が多いせいだな。 千代様のことは儂も覚えておる、年齢にそぐわん言動や自ら作った物を試さずにはいられん性根。 問題発言や行動もあったが、それでも皆を気遣い行動している節が多く見られた。 ・・・・素晴らしいお方ではあったのだろう、故に汚い大人どもの道具にされ危うく命までも危険に晒すところであった。 千代様を守りたいと若者どもが言うのも理解はできる、それが逆に千代様の身を危険に晒すということに何故気づかんのだ! 輝宗様にその才覚を見込まれ、養女として迎えられたというのは不幸中の幸いであった。あのお方ならば千代様を正しく使って下さるだろう。 何だ?今来客だ! 新しい代官が来た?すまんなお客人、話はここまでにさせて貰うぞい。 ◇◇◇◇ 「ふぅ」 その男は、村人から一通り話しを聞き終わった後に外へ出た。その顔はなんとも言えない呆けた顔をしている。 男は商人だ、実は忍びという訳でもなんでも無いもので京へと戻る際に土産話でも持って帰ろうと画策している者である。 無論、そこに他の誰かの意思があるのは言うまでも無いことだが。 「やれやれ、今川輝宗様の情報があれば少しでも調べて来い〜だなんて。うちの()()()()はなーにをかんがえているんだろうな。』 男のご主人様は、今川の敵勢力では無い。無論輝宗個人に恨みを抱いているなどという可能性も無いだろう。 にも関わらず商売のついでにこれをやって来いと命じた、その裏には何か意図がある筈だ。 「まっ、好奇心は猫をも殺す...気にしないようにしないと。」 そう言うと、男は踵を返し来た道を逆に戻る。 その足取りは、思いの外軽かった。
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