第九話。盞を片手に(肴はファンタジー)。

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「あ。昨日のお昼ナポリタンにしたんだけど、作り方を教えてくれって真剣だったよ。后妃様が凄く気に入ったみたいで、ご所望だとか……ひょっとして、一刀が作ってあげたんだ?」 「ああ。錦程料理は出来ないが、何も食わせない訳には行かないからな」  一刀は、何の気無しに答えたのだが。 「僕、一刀のナポリタン食べた事無いけど」  先程迄良い雰囲気だったと言うのに、錦の表情と声が変わった。 「そ、それはっ……お前の為にナポリタンを覚えたが、機会がなくてだな……っ」  何時も冷静な一刀だが、どうしても錦に関しては感情が揺れ動く。そのせいか、錦にはこの焦り様がどうも引っかかって。 「言えば良いだけだろう。キッチンは僕だけの物じゃないんだからさ……じゃあ、后妃様がご試食一番なんだね」  言葉の棘が痛い。だが、折角良い雰囲気となったんだ。どうしてもこれを保ちたい一刀。咳払いを一つして。 「一番に食べさせられなかったのは、俺も不本意だ。けど、今日の夕食に作るから許してくれ……俺の錦には、ハンバーグも付ける」  錦だけの特別プレートを提案。すると。 「お願いします!」  漸く御機嫌を直してくれた奥方様。又甘い口付けを交わして、微笑み合って。  今日は、ずっと二人きりでいたい。沢山話したい事がある。もう一人の『錦』からの伝言もそのひとつ。  けれど結局、今回の入れ替わりは何だったのかは不明のまま。切っ掛けも寝て起きただけで。  本人達は知り得ないが、只共通しているのは。  ――錦が一番の宝物――  だと言う事を、再認識できた事です。  ――完。
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