第九話。盞を片手に(肴はファンタジー)。

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「なら御自由にどうぞ、后妃様。後、暑いからこれもその辺へ置いといてくれ」  言いながら、羽織を放り投げる様にその体へ掛けてやった一刀。その感覚に、錦は羽織へ触れて踞る。笑みを浮かべて。 「……一刀殿」  暗闇に聞こえた名を呼ぶ錦の声。 「どうした?」  返ってきた答えに。 「もし、この眠りで全てが元へ戻ったらば……奥方様へ、御伝え頂きたい事が御座います」 「何だ?」  一刀が促すと、錦が一つ呼吸をして。 「もう一人の『貴方』は幸せですと。そして、もう一人の『私』も幸せなのだと確信が出来、真に喜ばしきと」  その言葉に、一刀が密やかに微笑んで。 「ああ。伝えておく――」  立派な布団を挟んで、背を向け眠る。何故か懐かしい感覚。ここは自宅ではないのに、何故かとても安心できて。そこから、意識は間も無く途切れた。  そして。次に聞こえたのは、聞き慣れた足音が近付く音。聞き慣れた扉が開く音――。 「お、おはよう、ございます?……帝、かな……一刀、戻ってくれ、ましたか?」  不安そうな声。けれど、耳に馴染む声と口調を耳にし、徐に体を起こした一刀。自分がいるのは、見慣れた場所だった。そこは、リビングのソファ。この状況に、一刀は口元を緩めて。 「あの、えっと……?」  先程の声も然り、不安そうにしている錦を振り返った。 「よう眠れた。此の床も、中々に乙なもの……朝餉(あさげ)を頂きたいのだが」  そう声を出して見ると、錦の表情が一瞬曇った事へ満足して。 「心配を掛けて悪かったな。『ただいま』、錦」  微笑む一刀へ、錦の表情に明るさが蘇ってくる。そして、笑顔を浮かべながらも涙を滲ませた。 「一刀……一刀だね?!……っ、いっとぉ……!」  駆け出し、胸に飛び込んできた錦を一刀が確りと抱き止めた。その腕の中に、恋しかった笑みがあって。 「良かった。おかえりなさい……っ!」
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