第九話。盞を片手に(肴はファンタジー)。

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 肩を落とし俯く錦へ、一刀は面目無さに言葉も思い浮かばない。錦も、一刀の体調に不安はあった。口数は減ったけれど、食欲もあるし、身の回りを整える余裕も見ていた。けれど、来週の何処かで一日だけでも休みを取って欲しいとだけ強く伝えて。けれど案の定一刀は、その約束を忘れて休暇の届けを出せずにいたが。 「一刀が昨日の朝起きて来ない事態が起きて……今の僕は家内として、一刀の体調を冷静に見るべきだったのにって……ごめんなさい」  憂え謝る錦へ、一刀は堪らず席を立ち錦の側へ。そして、その背より抱き締めて。 「止めてくれ。俺が錦に甘え過ぎてたんだ……お前がいるからこそ出来る事を、当たり前にしてたんだ」  そうだ、一刀は錦へ甘えていた。夢で后妃錦へ語った思い。自分の思いを優先して、錦の思いに気が付けなかった。けれど錦は何時も、自分より自分以外に心を傾ける。そんな錦が、初めて家族の思いを振り切ってここへ来てくれた。そうまでして一刀を選らんでくれた。あの時、この人を必ず大切にすると誓ったのに。 「一刀……?」  一刀の震える腕の中、心配そうに顔を上げ振り返った錦。そこへ重なる唇。 「何時も有り難う……これからは、お前の言う様に体調管理を考える。約束だ」  真剣にそう告げる一刀。それは、プロポーズをした時と同じ瞳。錦は、驚きながらも直ぐに笑顔を見せる。一刀が夢の中で恋しくて、会いたくて堪らなかった笑顔。 「うん。約束だよ……僕の方こそ、何時も有り難う……!」  再び重なる唇。そこで、錦が何かを思い付いた様に。
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