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「あ……」
驚かせたのだろうか、少し怯えた様な声が聞こえた。此処で漸く我に返る一刀。折角火を付けた煙草も、携帯灰皿へ仕舞い込んでしまう。
「申し訳ありません、先客に気が付けず……」
「いえ……も、もう行きますので……っ」
と、其の男装の麗人は、一刀が出て来たパーティー会場へ続く出入口へ身を向けた。足を進め、側を通り過ぎる所で足が縺れた様子。倒れかかった其の身を支えんと、咄嗟に手を伸ばした一刀が触れたのは胸。だったが、随分小振り。いやしかしだ。
「申し訳無い……!」
不可抗力と言え、飛んだ無礼をと。しかし、其の人は頬を染め苦笑いを浮かべる。
「お気になさらず。此れでも、私は男なので……」
「え……」
男。一刀は、失礼ながら素直に驚いてしまった。当人は、恐らくよくある事案なのだろう、一刀の勘違いを特に無礼と責める雰囲気も無く。一刀の支えを頼りに、不安定だった身を整え離れた。そして、丁寧に頭を下げる。
「其れよりも、此方こそ申し訳ありません。有り難う御座いました……」
「いえ。飛んでもない」
一刀は、恥じらいながらも笑うその人を見詰め、胸がざわつく感覚に戸惑っていた。女、男、どちらを前にしても初めて味わうものだと。
「あの、私は錦と申します、貴方様は……」
名を訊ねられた一刀は、口を開く。
「私は――」
「一刀さま!緊急のお電話です!」
丁度、雪代の声が。慌てる様に携帯電話を見せながら駆け寄って来る姿を一度振り返った。錦へと向き直り、互いに苦笑い。
「一刀と申します。大変申し訳ありません、又後程」
錦が気になるも、雪代がわざわざ伝えに来る相手、要件だ。直ぐに戻るつもりで、錦へ背を向けた一刀。去って行く一刀の後ろ姿を、錦は動く事無く見送った。其の頬は赤く染まり、瞳はぼんやり一刀が去った方向を見詰めたまま。
「一刀さま……――」
――お互いに、此れは運命の出会いだった。
そこから色々な苦難も乗り越え、めでたく結婚しました。と、いう感じの空気でお届け致します。下らない話が多い事を先に御詫びしておきます。
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