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「最近後宮の出費や陛下御自身の出費が異様に増えている。すべて葉妃様の御要望の品だそうだが」
柳珠の言葉に今度は燕薫が頭を抱えた。
二年前、今は葉妃と呼ばれる若葉色の瞳を持つ絶世の美女が見初められてから、龍郭は国を顧みることをしなくなり、日がな一日中葉妃の側にいるようになった。葉妃が望めば玉も絹も幾らでも与え、葉妃が気に入らないと言えば罪のない側仕えの宮女や宦官を処刑した。贅沢を好む葉妃に国庫を食い潰され、今の亮の国は災害時に備えることも、武器を揃えることもままならない。そして本来龍郭がすべき仕事はすべて柳珠の元へ回されていた。
「仕事はどうにかするが、今災害が起こったり、他国に攻め入られたりしたらと思うと恐ろしい」
どれほど柳珠が頑張ろうとも、それをはるかに上回る浪費を繰り返されてはどうしようもない。それに皇帝がこのあり様だと他国に知られれば、格好の餌食だ。今の亮の国には応戦するだけの力はない。
「架醍(かだい)が何やらまたきな臭い。あそこは卑怯で残酷な手も躊躇いなく使うからな。矛先がこちらに向かなければいいが」
燕薫の言う架醍とは、王が代替わりしてから急速に領土を広げている元小国のことだ。隣国ではないとはいえ、亮と近いことには変わりない。間には西のオルシアと同じくらいに豊かな国土を持つ東の大国・潤があるため、流石の架醍もそう簡単に手は出してこないだろうが、何事にも油断などできない。
今の皇帝に諫言など無意味だ。誰もがそう諦めを抱き、皇帝に希望も何も抱くことなく無気力になっているが、決して平穏とはいえない周りの状況や亮の内情を鑑みても、ここは命を懸けてでも龍郭に諫言するしかない。それが尚書令たる柳珠の役目だ。もう国も民も限界などとっくに超えている。このままではいけない。覚悟を決めて柳珠が顔を上げた時だった。また扉がコンコンッと叩かれる。入室の許可を出せば、やはり一人の宦官が立っていた。
「陛下の御命令でございます。緊急の会議を行うので至急集まられますよう」
会議? 先程宦官をよこして書簡をすべて柳珠に持ってきたので今日は後宮から出てこないものとばかり思っていたが、急にどうしたというのだろうか。諫言する前から皇帝としての仕事をしてくれるのは喜ばしいことであるはずなのに、なぜか嫌な予感が頭から離れない。
柳珠と燕薫は首を傾げながらも揃って大広間に向かった。広間に到着すれば既に三省六部の高官たちが揃っている。招集の意味を探るようにあちこちでざわめきが広がっているが、やはり誰も答えは知らない。とりあえずいつもの場所に立った時、大きく扉が開いた。
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