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「アズ……また良からぬことを考えてるんじゃないだろうな。」
不意にかけられた声に、俺は手に持った書類から目を逸らし、声の主に微笑みかける。
「……本当におまえは失礼な奴だな。
良からぬ事とはなんだ。
俺は、いつだってここのためを考えてだなぁ……」
「あぁ、わかったわかった。
その話なら聞き飽きた。
……だけど、いい加減にしておけよ。
みつかったら、そんな言い訳は通らないからな。」
「……そんなドジするかよ。」
サマエルは、返事の代わりに苦い微笑を残しし、その場から消え去った。
これまでにも何度も言ってるのに、あいつは本当に真面目で困る。
俺は、再び、読みかけの書類に目を戻した。
読めば読むほど、気分が重くなる内容だ。
産まれてからずっと苦労ばかり……
これほどの不幸に見舞われながら、ここまで生きて来たのは、たいしたもんだ。
こんな過酷な人生を送るのには、きっと、過去になにか原因があるのだろうが、そこまでは俺でも知ることは出来ない。
けれど、書類に記載されたその人物の画像は、この不幸な人生とはおよそ似つかわしくない晴れやかな笑顔を浮かべている。
余程、図太い女なのか…
それとも、いつものように……
まぁ、そんなことはどうでも良い。
この女の人生はもうじき幕を降ろすのだから。
最後も、何の関係もない通り魔によって刺し殺されるというろくでもない結末だ。
産まれてから死ぬまで、これといって幸せな想いも味わえないまま、この女は死んでいくのだ。
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