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3 加藤敬介
寝室に入った千春を見送って、リビングに残った。ソファーに体を預けて、天井を眺める。脳裏には、千春の動揺した顔が浮かんだ。
「先生から聞いたよ」
「先生?」
「吉岡先生」
その名前に、彼女は目を見開いた。
「聞いたって、何を?」
「先生には最後まで言うなと言われていた。だけど、もう無理だ」
「だから、何を言われたの?」
「君の。君のお母さんのことを」
「お母さんって・・・お母さんが何をしたって言うのよ?」
「ここに書いてある通り、何もしていないさ。だけど、千春は一度でも父親のことを気にしたことがあるだろ?」
千春は黙って何も答えなかった。
僕は、そんな千春から目を逸らさずに話を続けた。
「先生は、そのことを気にかけてくれていたんだ。お母さんにとっては理不尽な理由だけど、こうして離れてしまったことを。僕だって、こんなことをするつもりはなかったんだ」
千春は口元を結び、じっと黙った。自分の内側で何かを自問自答しているかのように。
そう。こんな事は自分1人で出来る事じゃない。なんてったって、家族のことなんだから。
僕は、千春を見て、はっきりと伝えた。
ーーこれは、吉岡先生が始めたこと。先生の意志を引き継いでいると。
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