4 三上哲雄

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 「実はーー」  俺は、意を決してここにやって来た動機を告げた。先日由希子を見かけたこと。泣き崩れて、周囲の人に支えられていたこと。そして、それが我が子もくの葬儀だったのではないかと、想像していることを。  一つ一つ言葉を並べるたびに、彼女の目線が少しずつ下がっていくのが分かった。  木目調のフローリング。どこにでもあるその模様。俺も同じようにその床を見ながら話をしていた。 「突然に家まで押しかけて、君にこんな話をするのは申し訳ないんだけどさ」  全てを話終えた後、二人を包んでいたその空気は、優しくもなく暖かくもなかった。ただどんよりとした湿っぽい空気に包まれ、体温が上昇していくのを感じた。 「そっか・・見ちゃったんだ」  力のない声で、彼女は答えた。 「そんなつもりはなかったんだけど・・ごめん」 「謝る事ないよ。そうだよね。もし本当なら言わなくてちゃいけなかったことかもしれなかったしね」  もし本当なら? 「あなたは何も悪くない。それに、あなたが思っているような、最悪な結果ではないわ。だから、あなたは落ち込まなくてもいいの。安心して」 「どういうこと?」 「亡くなったのは、あの子じゃない。あの子は今でも元気にしてるわ。だから落ち込まないで」 「だったら、誰なの? こんな事を聞いて申し訳ないんだけど」  由希子はまた視線を落として、しばらく口を詰むんだ。
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