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悲しみを蒸し返す自分はどうかしていると思った。しかし、そんな内生を繰り返す自分を払いのけて、彼女に神経を注ぐように意識した。
由希子を見ていると、そこにはほんの僅かに、俺に知られたくない何かがあるのかもしれない。そんな気がしたからだ。俺は、その事実を知りたくて、ここまでやって来たのだ。
「友達」
しばらく間を開けて、さらに細い声で由希子は答えた。
「友達が亡くなったの」
「俺の知っている人?」
「あなたは知らないわ。知り合ったのは、別れた後だから」
「そうか」
由希子は立ち上がった。
「ごめん。夕食の支度するから」
どうやら帰るように、促されたようだ。
「ああ。突然悪かったね」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「気にしないで。それより、元気そうでよかった」
「君こそ、食事はしっかり摂った方が良いよ。くれぐれも体には気をつけて」
「お互いね」
「コーヒーご馳走様。美味しかったよ」
見送られながら玄関まで歩いていると、「ああ、そうだ」と言って、彼女はスマホを取り出した。
「よかったら、連絡先教えてくれない?」
「構わないけど、大丈夫なの?」
「どうして?」
「その、旦那さんのことがあるから」
「何、子供みたいなこと気にしてるの? 大丈夫よ」
久しぶりに由希子向かい合ってスマホを並べた時、不思議な光景に思えた。結婚をしていた2人がまた連絡先を交換するなんて。
今回はどこか複雑な気持ちな方が、強かった。
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