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5 三上哲雄
『友達』
『友達』
『友達』
由希子の言葉が何度も響く。
自分を保てなくなった。
車を路肩に止めた。
ハザードを焚いて、大きく息を吐く。
『友達が亡くなったの』
由希子は、確かにそう言った。
どうしてそこに躊躇いがあったのだろうか?
あの時、少し空いた間には、何かが詰まっている。そんな感覚だ。
正直、俺は、由希子の言葉を素直に信じることができなかった。
悲しみが気持ちを覆って、それを言葉にしたくなかった。確かに、それはあるかもしれない。でも、それだけなんだろうか?
それに、あの家には、娘や新しいパートナーと過ごす生活感がなかった。一人で暮していると言われたら、納得するかもしれない。だけど、それならどうして、あの家に一人で生活をしているのか? 何故、あの家なんだろうか? 実家で暮らしているのは、どうしてなんだろう?
仮に、彼女が嘘をつき、本当に娘の葬儀だったとすれば、彼女の苗字は変わっていないことになる。新しい旦那と何かあったのか? だけど、こんなことを聞いても、答えてくれる気がしない。
彼女は、何か抱えている気がした。
吉岡玲奈。その女性を知ることが、全てを掴めそうな気がする。
しかし、そんな術は、何も思いつかない。
翌日。店に顔を出すと、敦子は明らかに不機嫌だった。突然に店を休んだことはもちろん、連絡を途絶えさせたことを、何より怒っていた。それは申し訳ないと思っているし、自分でも良くないことだと認識している。
しかし、それは敦子には、答えることができない。由希子と会っていたなんて言えるはずがない。彼女の周りで何かが起きているなんて、余計に言えない。それを告げると、きっと引っ込むように言ってくるのが目に見えていた。
それから敦子は、ずっと不機嫌なまま。俺は、そんな敦子を見ないふりをした。
そんな日常が続いていった。
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