2 吉岡由希子

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「ちょっと勘弁してよ」  彼が厨房に戻っていくと、すぐに、花音に文句を言った。 「何言ってんのよ。きっかけなんて、時間が経てば笑えるものよ」  花音の言いたいことは、分からなくはない。その言葉に、妙に納得をしてしまったから。なんか強引な感じが嫌だったけど、でも、こんなのもありかもしれないという、善悪が混じり合った気持ちだった。  そこからは、全てが上手く運ばれたのは、言うまでもない。私達は結婚をしたわけだから。  彼はあんな事を言いながら、頻繁に連絡を寄越してくれた。私は連絡が来ることが嬉しくなって、楽しみに待つようになっていた。好意を抱いている人から連絡をもらえることを、嬉しく思わない人なんていない。  ご飯に出かけ、遊びにも出かけるようになった。回数を重ねるごと、私の気持ちは高まっていった。いつの間にか、自分から次に会える日を約束するようになっていた。花音が言っていたことは、間違っていなかった。むしろ、言った通りのままだ。あの時の私は、花音に感謝していた。  その後、彼からの告白で私達は付き合った。時々、喧嘩もしたけど、嫌いにならなかった。むしろ、もっと自分のことを知ってほしいと思い、自分なりにアピールを続けた。  彼は、そんな私を理解してくれて、受け入れてくれているのがわかった。  嬉しかった。自分の内面まで、好きになってくれている気がした。  私は、こんな彼との未来を、想像するようになった。  そして、一年と半年が経ってから、私の家でプロポーズを受けた。  自然と、嬉し涙を流してしまった。もちろん頷いて、彼を受け入れた。  それから半年後に、正式に夫婦になった。  その数年後には娘を身籠った。  幸せだった。本当に幸せだった。他のことが、目に入らないくらいに。  だけど、そんな最中に、私の気持ちは変化していった。あんなに楽しかった時間が嘘だったかのように。
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