3 吉岡由希子

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3 吉岡由希子

「実家が飲食店を営んでいる。それがもしかしたら、きっかけかもしれない」  プロポーズを受けてから数日経ったある夜。互いの両親への挨拶の日取りを、決めていた会話の流れで、いつしかお互いの昔話が話題になっていた。ごくありきたりな話題で、誰でも経験があるようなことだけど、それはもっと相手を知りたいための成り行きだ。  夫婦になるんだから、とにかく相手のことを知りたい。彼という人間の内側の細部まで。だから私は、彼にそんな話を聞いた。 「だから料理人になったの?」  私の問いに、彼は頷く。 「料理人っていっても、全部自分で作っているわけではないけどね」 「でも、あなたがいないと、全てが上手くいくわけではないでしょ? 代わりが効くにしても、少なからず時間がかかる訳だし」 「まあ、確かにそうかもしれないけど」 「それで、何屋さん?」 「洋食屋だけど」 「それも同じなんだね」 「たまたまだよ」 「だったらさ、お店に行っていいかな? そこでご両親に挨拶したい。お店のご飯も食べてみたいし」 「構わないけど、母親はいないんだ。病気で亡くなってしまったから」 「そうなんだ。悲しい事を聞いてごめんなさい」 「気にしないでいいよ。知らないことだから、由希子は悪くない」
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