43人が本棚に入れています
本棚に追加
3 吉岡由希子
「実家が飲食店を営んでいる。それがもしかしたら、きっかけかもしれない」
プロポーズを受けてから数日経ったある夜。互いの両親への挨拶の日取りを、決めていた会話の流れで、いつしかお互いの昔話が話題になっていた。ごくありきたりな話題で、誰でも経験があるようなことだけど、それはもっと相手を知りたいための成り行きだ。
夫婦になるんだから、とにかく相手のことを知りたい。彼という人間の内側の細部まで。だから私は、彼にそんな話を聞いた。
「だから料理人になったの?」
私の問いに、彼は頷く。
「料理人っていっても、全部自分で作っているわけではないけどね」
「でも、あなたがいないと、全てが上手くいくわけではないでしょ? 代わりが効くにしても、少なからず時間がかかる訳だし」
「まあ、確かにそうかもしれないけど」
「それで、何屋さん?」
「洋食屋だけど」
「それも同じなんだね」
「たまたまだよ」
「だったらさ、お店に行っていいかな? そこでご両親に挨拶したい。お店のご飯も食べてみたいし」
「構わないけど、母親はいないんだ。病気で亡くなってしまったから」
「そうなんだ。悲しい事を聞いてごめんなさい」
「気にしないでいいよ。知らないことだから、由希子は悪くない」
最初のコメントを投稿しよう!