3 吉岡由希子

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 数週間後。私は、彼の実家の店に行った。その店は、お姉さんと二人で営んでいる。その経緯は、事前に聞かされた。  近くのパーキングに車を駐めて、彼の後ろから付いていく。  しばらくすると、彼は「あの店」と、指差した。  父親の店が流行っているのは、遠目からでもわかった。かき入れ時の昼間に長い列を作り、店の料理が、たくさんの人に求められていた。  人がやって来てくれることは、ありがたい。作ったものを求められることは、嬉しい。職種は違えど、同じように店で働く者として、そんな気持ちが重なった。  私達は、人の波がおさまるまで、向かいの喫茶店で待つことにした。  喫茶店から、窓越しに店の雰囲気がよく見えた。お客さんは慣れているのか、笑顔で彼の父親や姉と話をしながら、料理が運ばれてくるのを待っていた。その料理を目の前にした時は、さらに嬉しそうだった。  お客さんから愛されているんだな。人柄も。作った料理も。それが当時の印象として残っている。  昼の営業を終えると、私は彼に連れられて、店に向かった。  扉を開けると、二人は後片づけをしていた。  店に入ると、すぐに挨拶をした。  すると、二人は笑顔で、私を迎え入れてくれた。 「哲雄から話は聞いてるわ。ねえ、お父さん」  姉が父親に、向きながら言った。 「ああ、こんな奴だけどよろしく頼むよ」  笑顔を見せながら父親も続いた。 「一言多いんだよ」  彼は、かかさず口を挟む。 「照れてんじゃねえよ。それより飯まだか?」  父親が問いかけた。 「まだ。彼女がハンバーグ食いたいって言ってるんだけど、いいかな?」 「そう言われると思って、残してあるよ」  父親の目線がこちらに向く。 「由希子さん。楽しみしててよ。今までで一番のハンバーグを作ってやるから」 「はい。頂きます。哲雄さんからも、どこの店よりも、一番おいしいって聞いているので、楽しみにしてました」 「そんな事を言われたら、張り切らないとな」  そう言った父親は、再びフライパンを手にした。
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