6 三上哲雄

1/3
前へ
/101ページ
次へ

6 三上哲雄

「玉ねぎ足りるかな?」  俺は、敦子に言った。 「ないの?」 「たくさんあったから頼まなかった。こんなに早く無くなるとは、思わなかったから」 「しっかりしてよ」 「買ってくるわ。まだ間に合うだろ」  愚痴愚痴と敦子に文句を言われながら、店を出た。由希子と再会した日から、ずっとこの調子だ。  市場は、車で二十分程のところにある。いつもなら仕入れで持ってきてもらうが、注文をしていないと、そうはいかない。頼むことは楽だが、時間を優先するなら動いた方が、もちろん早い。  自家用車で、国道を走る。街並みは朽ち果ててきているが、変わっていないところの方が多い。ここに帰って来て数年経っているが、周辺は進化していない。このまま、変わらないままなのだろうか?  街並みを抜けると、すぐに市場の大きな看板が見える。看板を過ぎて、最初の広場に左折すれば、到着だ。  車を降りると、馴染みの店に一直線に向かい、玉ねぎを一ダース買う。それを運び、車に積込むと早々に引き返す。  帰りは、大通りから一本内側にある一方通行の裏道を走る。行きには使えない道だ。  信号が少なく、そちらの方が断然に早い。こんな道が行きにもあればいいと、免許を取ってからずっと思っている。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加