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店に帰って来ると、早々に敦子が外に出てきた。表情がどこか曇っている。機嫌が悪くなったわけではないようだ。
「どうしたの?」
俺は聞いた。
「なんか、哲雄に用があるってお客さんが」
「客? なんの用で?」
「それが・・」
敦子が何かを言いかけた時、店の中から男が顔を出してきた。全く見覚えのない顔だった。
男は会釈をして、こちらに近づいて来た。
「三上哲雄さんでしょうか?」
「そうですけど」
そう言って俺は、敦子を一瞥した。
「俺に何か?」
「突然のご訪問で、申し訳ありません。私はこういうもので」
男は名刺を差し出してきた。
若林雪嗣。それが男の名前だった。その上には『(株)スペース 』と書いてある。一体何者なんだ?
「すみません。名刺を持っていないもので」
俺は素直に、そう答えた。事実であるから仕方ない。
「構いません。私が突然に押しかけたので、義務として。それに、あなたの事は十分把握してしているつもりです」
「把握している?」
「ええ。詳しい話を、中でさせていただけないでしょうか?」
眼鏡の奥の目は笑っていない。若林の顔は、どこか不気味だった。この男は、一体何を企んでいるのか。
ずっと探っている自分に気が付いた。
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