6 三上哲雄

2/3
前へ
/101ページ
次へ
 店に帰って来ると、早々に敦子が外に出てきた。表情がどこか曇っている。機嫌が悪くなったわけではないようだ。 「どうしたの?」  俺は聞いた。 「なんか、哲雄に用があるってお客さんが」 「客? なんの用で?」 「それが・・」  敦子が何かを言いかけた時、店の中から男が顔を出してきた。全く見覚えのない顔だった。  男は会釈をして、こちらに近づいて来た。 「三上哲雄さんでしょうか?」 「そうですけど」  そう言って俺は、敦子を一瞥した。 「俺に何か?」 「突然のご訪問で、申し訳ありません。私はこういうもので」  男は名刺を差し出してきた。  若林雪嗣。それが男の名前だった。その上には『(株)スペース 』と書いてある。一体何者なんだ? 「すみません。名刺を持っていないもので」  俺は素直に、そう答えた。事実であるから仕方ない。 「構いません。私が突然に押しかけたので、義務として。それに、あなたの事は十分把握してしているつもりです」 「把握している?」 「ええ。詳しい話を、中でさせていただけないでしょうか?」  眼鏡の奥の目は笑っていない。若林の顔は、どこか不気味だった。この男は、一体何を企んでいるのか。  ずっと探っている自分に気が付いた。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加