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「まだですか?」
資料に目を通す私に、男は問いかけた。
「何急かしてんのよ。こっちだって、もうすぐ息子が帰って来る時間なんだから、暇じゃないの」
そう言って、千春は男を睨んだ。
「もしかして、子供のことまで調べ上げてないでしょうね?」
「まさか。あなたのご家族だけです」
生まれた家の方の。と、男は付け加えた。
「本当に約束を守ってくださいね」
男が懇願する。
「わかってるわよ」
人にバラすのだけはやめてほしい。今にも逃げ出しそうな表情で訴えてきた。
男は日岡という名前らしい。名前からして、自ら探偵事務所を営んでいるようだ。
「まだ見るんですか?」
日岡が、また口を挟んだ。
「当たり前でしょ。こっちもそれなりの話を聞かせてもらわないといけないんだから」
そもそもどうして私が探偵なんかにまとわり付かれなくてはいけないんだ。私はただの民間人。まずはそれをあぶり出さないといけない。
状況を把握するまで、この男をみすみすと返す訳にはいかない。
「それで、これからどうするつもりだったの?」
「ですから、あなたとお母様。それに、先日葬儀を行った吉岡玲奈さんの事を調べてほしいと言われまして」
「どこの誰が? あと、その理由は?」
「勘弁してもらえないですか? 私にも立場というものがありまして」
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