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由希子がいなくなっても、俺の日常は変えられなかった。生きていく為にはお金が必要だし、そのお金がないと食べることも家に住むことだってできない。当然、電気だって水道だって使えない。どんな状況に立たされていても、俺の様子が変わったと職場でこそこそと言われていることに気が付いていても、仕事に行かなくてはならなかった。
影で噂話の題にされる事は辛かった。影で何かが行われる事も辛かった。
当時は、今のように父の店とは関わりのない所で仕事をしていた。父と仕事を共にする気にはなれなかったのだ。自立をして自分は別の道で働く。幼いながらに、決めていたことだった。
たらればを言い出したらキリがないと分かってはいるけど、ずっとこの店で働いていたら、気持ちはまた違う何かを抱えていたかもしれないと思う。余計なものを抱えなくてよかったかもしれないと思うことだってある。そんな過去の事は、どうにもできないのだけれど。
そんな日々の最中だった。仕事から帰ってくると、家のポストに一通の封筒が入っていた。宛名の字は見覚えのないもので、送り主には無記載だった。
それを手に取った時、何かが伝染した気分になった事を忘れていない。一気に不安が胸に膨らみ、悪い知らせがやって来たと思えてならなかった。
予感は当たっていた。
リビングのソファーに座り、すぐに封を開けた。中には畳まれた一枚の紙があり、すぐに紙を開いた。そこには、パソコンで書かれた文章が短く書かれていた。
『この事実を伝える前に、あなたに謝らせて頂きたい。大変、申し訳ない事をしてしまいました。
私は、昨年から由希子さんと交際していました。言い訳がましく聞こえるでしょうが、もちろん、そんなつもりはありませんでした。ただ、由希子さんと顔を合わす度に、気持ちを抑える事ができず、私から関係を申し込んだのです。
先日、由希子さん共に娘の検診に付き添いました。その結果、娘はあなたの子供ではなく、私の子供だという事が正式にわかりました。
あなたの妻を奪った事は申し訳なく思っています。ただ、こうして私達の間に娘が誕生した以上、責任を取らせて頂きたいのです。お願いです。私を由紀子さんと結婚させてください。離婚届を早く提出して頂きたい。2人の間に生まれた子供を育てていくためにも。それに、その方があなたのーー』
はっきり言って、それからのことは全く覚えていない。何をしていたのかなんてさっぱり記憶の片隅にも残っていない。気が付いた時には、家の中が荒れ果てていた。
『娘は、あなたの子供ではない。私の子供』
『娘は、あなたの子供ではない。私の子供』
『娘は、あなたの子供ではない。私の子供』
『昨年から、交際していた』
『私と結婚させてください』
文章の一つ一つの言葉が、ゆっくりと頭を辿っていた。その文章は、頭の中で復唱されて、ずっと内生されていた。内側からの声を聞いているうちに、事態を抱えきる事ができなくなっていた。
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