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9 吉岡由希子
子供は愛おしい。初めて顔を合わせて、肌を触れ合った時はなおさらだ。これからは、この子と生きていく。母に支えてもらいながらだけど、誰にも邪魔をされずに生きていく。その気持ちに変わりはなかった。
三上哲雄や玲奈の離れてから数ヶ月後、私は娘と出会った。
あの時の気持ちは今でも忘れられない。数時間に及ぶ健闘の上、大きな声を出しながら対面した娘との出会いは、今でも涙を流しそうになる。
三千二百十一グラム。元気な女の子だった。
名前は、母と話し合っていた通り、顔を見て決めた。
巡り会った女の子には『千春』と名付けた。
理由はない。ただ顔を見た時に、この子は千春だと思ったのだ。
私も生まれた家。そこが新しい生活の場所だった。
出産から数日後に実家に戻り、母と千春と三人で暮らしていった。
家は、千春の存在で一気に明るくなった。
眩しい女神が、現れてくれたのだ。そんなことは、当然と言えば当然のこと。
「父がいれば、きっと誰よりも喜んでくれた」
時折、母とそう言い合った。
私から生まれる子供。誰よりもそんな孫の存在を楽しみにしていた父。きっと顔が緩みっぱなしだっただろうなと想像した。(そんな父を、あいつらとは一緒にして欲しくない)
そんな父がいなくなって、少しだけ暗くなっていた家。
母は、急に忙しくなった事に、嬉しそうだった。
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