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調査書をテーブルの上に置いた。
「これが調べてもらった結果だよ」
千春は、その書類を手にとり、じっと見入った。
その顔は、出会ったから見せたことのない顔だった。まるで、別人だ。
「どうして、勝手にそんな事をしてたの?」
冷たい声が突き刺さった。しかし、怯む訳にはいかない。
「だって、おかしくないか? 自分の過去が有耶無耶になったままなんて。だから、こうしてーー」
「これは私のことなの。あなたは私じゃない」
「だけど僕は君の夫だ。妻の過去を調べる権利はあるはずだ」
「だったら、せめて相談くらいしてくれたっていいじゃない。私は、勝手にされたことが許せないの。私達は、夫婦である前に一人の人間同士なのよ」
確かに、彼女の言っていることは間違ってはいない。しかし、僕はここで止めるわけにはいかない。あの人の、寂しそうな顔が脳裏から支えてくれる。
「いい加減、意地を張るの止めたらどうなんだ?」
「ほっといて」
「いや、できない。お母さんも君も」
「意地を張ってるには、あなたじゃない」
「どういう意味だよ」
「私のことを無断で」
「違う」
「何が違うの?」
千春の目を見ていると、あの人の言葉が蘇った。
いつの間にか、僕は、あの日のことをそのまま話し出していた。
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