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4 加藤敬介
先生は。吉岡先生は、突然に僕の前に姿を現した。
数年前。仕事帰りの駅のホームでのことだった。
「久しぶりね」
最初は自分が声を掛けられていることに気が付かなかった。しかし、肩を叩かれ振り向くと、意外な相手で驚いてしまった。
そんな僕を見る吉岡先生は、笑顔だった。
「そんなに驚かなくていいじゃない。まるで私がお化けみたい」
「そんなつもりはなくて」
先生は、僕のスーツ姿を眺めながら、感慨深く声を漏らしていた。「立派になったわねぇ」と。
その再会は、三年ぶりぐらいだっただろうか。高校三年の時、千春と二人でいるときに、たまたま出会した事があった。
すぐに、恋人といることに気まずさを感じた。昔の教師とはいえ、恥ずかしさがあったからだ。だけど、すぐにそんなものは消えた。千春が僕以上に驚き、先生と親しく話し出したからだ。
聞くと、二人は同じ学校にいたということだった。
千春はその再会が嬉しかったのか、終始笑顔が絶えなかった。
違う中学で同じ先生と繋がっていることに、世の中は狭いものだと思いながら二人の姿を見ていたことを、今でもはっきりと覚えている。
確かあの時は、すぐに僕が千春と付き合っていると、先生に悟られた。意外な組み合わせだと、あの時も感慨深そうだった。
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