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3 三上哲雄
「ねえ、残りある」
片付けがひと段落すると、敦子は食材の余り物の数を聞いてきた。品質が落ちそうなものを客に出すわけにはいかないので、家に持ち帰り夕食として出ることが敦子の生活のサイクルだった。
「今日は全くなしやな」
冷蔵庫を開けて、中を見せながら言った。今日は綺麗さっぱりと食材はが残っていなかった。途中からは品切れで、出せないメニューがあったくらいだ。
「まあ、嬉しい限りやな」
「本当だな」
最後の客席の椅子を机の上に乗せた。床掃除が終われば、一日の仕事を終える。
「ねえ」
敦子が声をかけてきた。
「何?」
「まだ気にしてるの?」
「気にしてるって?」
「由希子ちゃんのこと」
的を得た言葉に、敦子を見たまま思考が止まった。暗くなった窓ガラスに映る自分の顔は、正気ではないのは見ての通りだ。
「なんだよ、急に」
なんとか言葉を発したが、明らかに自分の様子はおかしかった。
敦子は続けた。
「最後のお客さんが話している時、由希子ちゃんの事を考えてたでしょ?」
「そんな事はないけど・・」
図星だ。今更上手い言い訳なんて思いつくわけがなかった。
「顔に出てた。いっつも由希子ちゃんの事を考えてる時はその顔するんだから」
「ごめん」
「謝るのもなしって、約束したでしょ?」
「そうだな」
「早よ片付けよう。お腹すいたわ」
口には出さなかったけど、そんな事を考えるなと言われても、できる訳がなかった。
今頃あの子はどこで何をしているのだろうか? このまま生きていたとしたら、今年で二十四歳だ。成人式には振袖を着て、その姿を微笑ましく見ることができていたかもしれない。
大人になったあの子の姿を想像してみた。でも想像は自分の気持ちを苦しめていくだけだった。
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