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4 三上哲雄
久しぶりに目にした門柱は、姿形を変えていなかった。相変わらず、庭の松の木も綺麗に手入れが行き届いている。周りのどこかから、鳥の鳴き声が聞こえる。懐かしくもあり、複雑な匂いを体いっぱいに浴びている気分だ。
家主の習慣は、何も変わっていないようだった。少なくとも、自宅の周囲には乱れを感じさせるものがなかった。
ーーだったら、あの葬儀はなんなんだ?
内生から声が聞こえた。昨晩からずっと響く声だ。
ーーどうして、あんなにも苦しそうな顔をしていたんだ?
ーー娘が死んだらじゃないのか?
様々な声を上げて、あれこれと口を挟む。だけど、今日の俺は、どこか冷静だった。あれこれ言われなくても、事実は目の前にあるのだと。
それでも昨晩は眠れなかった。あの子はやはり亡くなってしまったのか? それならどうして? どんな理由で? そんな事ばかりを考え続けていた。自分は答えなんて何も分からないと理解しているはずなのに、ずっと何かに問いかけていた。
だからこそ、じっと止まっている事を止めなければいけないと思った。もう関係のない間柄だと由希子に言われたにも関わらず、こんな事をしていいのかと、戸惑いは消えてはいない。だけど、そんな思考は、浮かび上がるたびに振り払っている。もう前に進まないと何も変わりそうにない。
どうしてこんな事を気にしなくてはいけないのだろうか?
ずっと残っていた疑問だ。その答えが、昨夜ふと浮かんだ。
『あの子は、自分の子供ではないのか?』
そんな望みを抱えていたからだ。
本当はずっと前から、その気持ちを持っていたかもしれない。だけど、俺はその気持ちから逃げていた。だから由希子から離れた場所に身をおいていたのかもしれない。
これを誰かに話すと、頭のおかしい人間だと思うかもしれない。二十年も経って、何を今更掘り起こしているのか? 今まで何もしなかったくせにと。
しかし、そんな事はもうどうでもいい。俺はもう、真実を知りたかった。
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