3月11日(水) お出かけコーデと安売り卵

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3月11日(水) お出かけコーデと安売り卵

───今日こそ私から連絡する! そう決意し、早めのお昼ご飯を食べてバワーチャージしてからスマホを持って窓の近くまで行く。今日は晴れて春本番の暖かさだ。 メッセージアプリを開き、『今、何してる?』というスタンプをタップする。そうするとすぐに『ゴロゴロしてる。』と返ってくる。嬉しくなって『次の思い出づくり、何にする?前回私の希望のにしてもらったから、次は蒼大のしたいことにしようよ。』と送る。辞書登録した『蒼大』という名前を打つのにドキドキした。 『ペンギン好きなら水族館行かない?あそこの水族館なら入館料も安いし。』 『それは私の趣味だから・・・。』 『爽乃が喜んでくれたら俺も嬉しいから。』 そう返ってきて胸が鷲掴みにされたような気分になる。 『本当にいいの?』 『あそこならペンギンたくさんいるし、外に屋台もあるし、海も見られるし、いいんじゃないかな?』 『ありがとう!!』 スタンプじゃなく文字で打ちたくてそうした。 『いつ行く?俺は明日でもいいよ。』と来たので、急だなと思いつつも「私も空いてるよ。』と返す。 『じゃ、明日の10時に駅集合な。』 『了解』のスタンプを押す。 明日!会えるのは嬉しいけどどうしよう!何着ていこう!メイクは!? ───私服で会うのは初めてだし・・・この間あまり買えなかったし・・・。学校ではアイブロウとビューラーと透明マスカラと色つきリップだけだったし・・・学校でメイクしてるのバレた子、その場で顔洗いに行かされてたしね。杏ちゃんと出掛ける時は多少メイクするけれど・・・メイク動画も見て研究しないと・・・。 とりあえず服とメイクコスメを買いに行く為、家を出た。 家に帰って来てから買った服と手持ちの服を床に並べ、あーだこーだと考える。 「・・・何やってんの?」 急に声がして驚く。見ると部屋の入り口に中学二年生の弟が立っていた。 「あ、ああ、おかえり。大学生になるしお母さんがお金くれて服買ったから、どういう組み合わせがいいかなと思って。」 「いいなー臨時収入。てか、『組み合わせ』じゃなくて『コーデ』じゃねえの?にしてもびっくりした。デートでも行くのかと思った。」 「デデ、デート!?そんなわけないでしょ!」 ───あれ?そんなわけなくもない?でも、付き合ってるわけじゃないし、杏ちゃんと出掛けるのと同じだよね。でも、男女が約束して出掛けるのってデート?そうしたらファストフードや卒業式の後もデートってことに・・・。 「なんか、地味な服しかねーな。いちおー女子大生なんだからもっと、ミニスカとかフリフリとかスケスケとか・・・。まー、ねーちゃんぽいけどさぁ。」 弟は服を見渡して呆れたように言う。 「うるさいなぁ。というか何しに来たの?」 私は小二の妹と同室、中二と小五の弟が同室だった。妹は学童に行っているから、あと一時間くらいしたら迎えに行く。 「や、雨降ってきたから洗濯物入れた方がいいんじゃね?って言おうと思って。 」 「えぇー!それ早く言ってよ!!布団も干してるから、一緒にしまって!」 「やだよ、めんどくさい。」 弟は自室に向かってしまった。 「もー!濡れたならちゃんと拭いときなよ!風邪ひくから。」 「へーへー、わかりましたよ。」 叫ぶと、絶対わかっていなさそうな返事が返ってきた。 洗濯物を取り込んで部屋に戻り改めて広げた洋服を見る。弟の言うように、もっと華やかな服装の方が男の子は喜ぶんだろうか・・・。や、喜ばすために服着るわけじゃないんだけど・・・でも・・・ワンピースは、なんか狙い過ぎ?だからと言って、デニムパンツはカジュアル過ぎ? 散々迷って、間をとってデニムの膝丈スカートにすることにした。下に履く白いレースのスカートがセットになっていて、そちらの裾についた二段のフリルがデニムスカートの下からのぞくようになっている。デニムスカートの前の真ん中に深いスリットがあるのでそこからも下のスカートが見える。 トップスは淡いミントグリーンのUネックのニット。首元にはニットより少し濃いグリーンのリボンが通してある。その上にライトベージュのニットパーカーを羽織ることにした。 バッグは白で包み紙に包まれたキャンディのような形のショルダー、足元は木靴のようなコロンとした形のシューズ、髪はハーフアップにして前に杏ちゃんのお母さんにもらった本物の花を加工して作ったヘアアクセサリーをつけることにした。 ファッションもメイクも初心者だからダサいかもしれないけど、今はこれが私の精一杯。 妹を学童に迎えに行き家に向かって歩いていると「爽乃(さやの)。」と呼ばれ振り返る。見ると蒼大でびっくりする。 「あ・・・お疲れ・・・。」 初めて名前を呼ばれたことにどぎまぎして思わずそう言ってしまい、自分に『何がお疲れなの!?』と突っ込む。 「・・・スーパー、卵、タイムセールで10個98円だったぞ。」 「本当!?行かなきゃ!」 「・・・またぁ・・・な。」 『また明日』と言いかけたようだったけれど、妹の方を一瞬見て辞めたようだった。 彼と別れてから大失敗に気がついて、その場で叫びたい衝動をなんとか抑えた。 ───服~!!! 先程コーディネートを考える為に洋服タンスをひっくり返した。その時出てきた『あーこの服まだあったんだ。野暮ったいしボロいけど迎えに行くだけだし雨だからこれでいいや。』と思った洋服を私は身にまとってしまっていた。 せっかく明日の為のコーディネートを用意したのに、こんな格好を見られてしまったら台無しだ。初めて見られた私服がこれなんて・・・。これからはどんなに近所に行く時でも、ゴミ捨ての時でさえも油断出来ないなと思った。 がっくりとうなだれる私を妹が不思議そうに見ていた。
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