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3月19日(木) 登壇と隠し事
今日は卒業した高校を訪れた。籍はまだあるけれど。
『終業式の後に新3年生に向けて大学受験の話をしてほしい』、と先生に言われたのだ。その後学校のパンフレットの撮影があり巻末の『卒業生の声』に何人かの同級生達と共に掲載されるらしい。
塾に行かないで学校の授業と夏休みや冬休みに学校で行われた講習のみで大学に合格したということで、担任の先生だけではなく校長先生や教科の先生方もすごく喜んでくれた。
校庭から玄関まで歩きながら、卒業式から10日しか経っていないのに、ここはもう私のいる場所じゃないんだなと思った。妹を小学校に迎えに行った時のように、自分がよそ者っぽく感じたのだ。
着ているのも制服ではない。ボウタイブラウスにフレアスカートで大人ぶってみた自分の姿が廊下の鏡に映る。かといってそんな自分が大学生らしいかというと決してそうは思えなかった。なんだかすごく中途半端な状態だ。
体育館の舞台上にパイプ椅子が並べられ、他の4人と座る。予め先生から話してほしいと言われていた内容───なぜその大学を選んだか、どのように勉強をしたか───を順番に話していく。その後、在校生達から『暗記のコツは何か。』『挫けそうになった時はどうしたか。』『どのような息抜きをしたか。』等の質問がされ、順番に答えていく。
「最後に後輩達に一言お願いします。」
皆がお姉さんみたいに慕っていた若い女性の先生が言って、私の番が来た。考えてきた言葉を述べる。
「受験は試験であって試練です。試練ていうのは、自分が『こうしたい』と決めた気持ちがどれだけ強いものなのかを厳しくためすことです。皆さんが『この大学に行きたい。』とか『将来こうなりたい。』とか思えた気持ちを大切にしてください。それが大きな力になります。高校三年生は高校生と受験生、両方を体験できる貴重な機会です。忙しいかと思うけど、一瞬一瞬を大切に、どうか両方楽しんで、後悔のない毎日にしてください。皆さんが希望する未来へ羽ばたけるよう心から応援しています。」
言いたいことはもっとあるような気がした。受験させてもらえることを当たり前と思わないで、と思ったけれど、そんなことを言ったら引かれそうなので辞め、お辞儀をして次の人にマイクを渡した。
電車に揺られながら明日のことを考えてドキドキしてきてしまう。『家族は旅行でいないから大丈夫。』なんて言っていたけれど、いない方が大丈夫じゃない。家で二人きりなんて・・・意識してしまう自分がおかしいのだろうか。
そう、ただ他に人がいない、というだけだ。することだって言ってみれば自分で焼くスタイルのお好み焼き屋さんで食べるのと同じことだし、話す内容だってきっといつもと変わらない。卒業式の後の川沿いの公園や水族館のペンギンのところで写真を撮った時だって二人きりだった。
なんだか無理矢理自分を納得させているみたいだ。それにお母さんやお父さんにはとても言えないようなことをしてしまっているような気がする。
しかし、お好み焼き粉や卵や野菜を使わせてもらう以上許可が必要なので昨日お母さんに『友達の家で粉もんパーティーをする。』と伝えた。
「この間のチケットあげた友達?そんなに仲いいんだ。今度うちにも連れて来てね。お父さんにも話しとこ。」
お母さんはとても嬉しそうだった。でも、どうしてかわからないけれど、お父さんには言ってほしくなかった。かと言ってそんなことを言うわけにもいかなくて、私は曖昧な笑みを浮かべたのだった。
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