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3月7日(土) 照れ笑いとスノードーム
葉吉杏花ちゃんは2歳年下の幼馴染みだ。物心ついた時には、毎年9月に神社であるお祭りの日に会っていた。
なんでも私は0歳の時に杏ちゃんのお母さんの浴衣に吐き戻してしまったり、1歳の時には誰よりも早くお腹の中にいる杏ちゃんの存在に気がついたらしい。
杏ちゃんの家族とうちの家族で動物園に行ったり、大きな公園でビニールシートを敷いてお花見をしたこともある。
でも私達も成長するにつれ段々親と出かけることが減って、今はお祭りには杏ちゃんと二人で行っているし、今日みたいにたまに遊んだりしている。
杏ちゃんは身長が150cmないくらいで、小動物みたいなかわいらしい顔をしている。まるで森に住む妖精のような雰囲気で『ほっこり』という言葉がぴったりな女の子だ。高1だけれど、年齢を知らなければ小学生くらいに見えるかもしれない 。彼女のお母さんも同じような雰囲気で、うちのお母さんより年上なんて思えないような女性だ。
受験が終わったら遊ぼうと話していたので、今日久しぶりに会うことになった。私は勉強ばかりでこれといった趣味もなく、二人で遊ぶ時は彼女の行きたいところに行くことにしている。
今日はお昼ご飯を食べてから会って、大きな公園で行われるハンドメイドマーケットをのぞいたり、駄菓子屋さんに行ったり、また公園に 戻って桜味のソフトクリームを二人で分けて食べたりした。
「爽ちゃん、これ、合格祝い。」
公園のテーブルを挟んで座っていると、杏ちゃんはそう言って微笑みながら桜色のオーガンジーの巾着袋を差し出してきた。
「え・・・そんなの、よかったのに。」
「爽ちゃん、ずっと頑張ってたでしょ。遊べないのは寂しかったけど、爽ちゃんの努力が実って私もすごく嬉しいから。」
純粋な笑顔に心打たれてしまう。
「私的には第二志望の大学なんだけどね・・・。」
照れもあって目を逸らして言うと、キラキラと明るい声が帰ってくる。
「でもきっとそこで楽しいことがたくさん待ってる。そこでしか出逢えない人や出来事がきっとあるよ。」
杏ちゃんは口数が多いわけではないのにいつもこうやって私の心を軽くして前向きにする言葉をくれる。
「ありがとう。」
そう言って巾着を受け取る。
「開けていい?」
「むしろ開けてほしい。」
聞いてみると、へへっと照れ笑いをされ、本当にかわいいなと思う。私は絶対しないような笑い方だ。
巾着を開けると中に入っていたのは緩衝材に包まれたスノードームだった。
「これ・・・もしかして作ってくれたの?」
「そう。お母さんと一緒に作ったんだ。」
杏ちゃんのお母さんはハンドメイドが趣味で、私達家族の誕生日やお祝い事にはプリザーブドフラワーや押し花、デコパージュ、羊毛フェルト、レジンなどで作ったプレゼントをくれた。
緩衝材を外して中身を取り出す。スノードームの中には大人と子供の数羽のペンギン達がいて、ひっくり返して元に戻すと、彼らの周りに薄いピンク色の花吹雪が舞った。
「爽ちゃん、ペンギン好きだもんね。ペンギンて言ったら雪だけど、桜も『薄紅の雪』って言うから。」
もう一度ひっくり返して戻すを繰り返していると、杏ちゃんが説明してくれた。
「すごいね。そんな発想、私は絶対に思いつかない。」
そう、私は教科書通りの発想しか頭にないつまらない人間だ。
もし、私が男だったら杏ちゃんみたいな子が彼女だったらいいな。可愛らしくていつも元気づけてくれてユニークな発想で楽しませてくれて・・・。
「ありがとう。大切にするね。」
「喜んでくれてよかった。」
心からお礼を言うと、杏ちゃんはふんわりとした笑顔で返してくれて私はまた見とれてしまった。
洋服を買うのに杏ちゃんに付き合ってもらうのは悪いなと思って、彼女と別れてから駅ビルで買い物をした。
しかしいつも洋服はお母さんが買ってきてくれるものを着るか、お母さんと一緒に選んでいたから、何を買ったらいいかわからなくてとりあえず2着購入した。 また今度買いに行こう。
家に帰ってスノードームのペンギンを撮影する。スマホを固定してタイマーをかけスノードームをひっくり返す。
何度かやってみてやっと納得のいく写真が撮れたので、メッセージアプリの自分のアイコンに設定すると、アイコンを新しくしたことが自動的にタイムラインに投稿される。
しばらくして見ると、杏ちゃんからの『いいね!』と『アイコンにしてくれてありがとう。』というコメントがあった。
そして3件の『いいね!』のうち1件は弟で、もう1件は・・・カヤくんだった。その名前を見るだけで胸がざわめいて、彼の姿が頭に浮かぶ。
身長は私より15cmくらい高くてどちらかというと細身。顔は、いわゆるしょうゆ顔というのだろうか。特別どこが大きいとか目立つとかいうこともなく、ひとつひとつの部位が上品な作りをしていた印象だ。おろした前髪は軽くすいていて、全体的に優しい雰囲気の顔だった。
彼と対面や電話で話す度に気持ちが風船のように膨らんでいくように感じるけれど、きっとそれは男子とこんな風に親しくすることが初めてだから舞い上がっているだけなのだと思った。
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