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scene:01《酒は飲むとも飲まるるな》
深い水底から浮上するように、眠りに沈んだ意識が、ゆっくりと引き上げられていく。
「………」
それは、浮上の余韻だろうか──瞼を開けても、まだ、水の底にいる感覚が離れないのは。
覚醒までには、あと少し足りない、薄く油膜が張ったように、ぼんやりとした視界。──それでも、かすかに違和感を感じ取り、オレは眉をひそめた。
──どこだ、ここは。
緩慢にまばたきを繰り返しながら、視線だけを彷徨わせる。
象牙色の壁のクロス、天井で緩やかに回るシーリングファン、ベージュやブラウンを基調にした、ナチュラルな雰囲気でまとめられた部屋の片隅で、長く茎を伸ばし大きな葉を広げる、名前も知らない観葉植物。
「…ディフェンバキア…」
ふと、呟きが口からこぼれ、次にハッとする。
──あれ…何でオレ、観葉植物の名前なんか知ってるんだ…!?
昨夜のアルコールが、まだ体内に残ってでもいるのか、記憶がひどく曖昧だ。
その、曖昧な記憶を探るように、植物の葉の、緑とクリーム色が混じりあった模様を見つめる。確かに知らないはず──だった。
『お前が観葉植物を育ててたなんて、意外だな。…なあ、コレ、なんて名前?』
『ディフェンバキア。結構立派に育って、いい感じだろ?』
不意に、会話が記憶に甦る。
そうだ。確かに昨日…オレは、そんな会話を誰かと──
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