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scene:01《酒は飲むとも飲まるるな》
うっすらと甦った会話。それを交わした相手が誰だったのかを思い出そうとしたところで、部屋のドアが、カチャリと音を立てた。
視線だけをドアに向けると、入ってきた人影と目が合った。
「…ああ、起きたのか、誉」
そこにいたのは、オレ・久我原誉が店長をしているカフェ“glory hole”のオーナーであり、5歳上の兄でもある、久我原 祐だ。
男らしく精悍だけど、どこか悪ガキっぽさが漂う顔立ち。普段はスーツに合わせて軽く流している、ちょっと硬めの、まっすぐな黒髪。身長は174cmのオレより、わずか2cmほど高いだけなのに、祐は普段の態度に加え、バランスのいい手足や、しっかりした肩幅と引き締まった体躯のせいか、見た目よりも背が高く見られることが多い。
「どうした、誉。やっぱり二日酔いか~?」
ベッドに横たわったままのオレを見下ろしながら、祐が何かいたずらを思いついたみたいにニヤリと笑う。…子供の頃と、ちっとも変わらない、その笑顔。もうすぐ三十路を迎えるというのに、“男はいつまでも少年”を地で行くのが、この祐だ。
こちらも寝起きなのか、Tシャツにスウェット姿の祐を見た途端、ぼんやりしていた記憶が、少しだけ輪郭を取り戻した。
ここは、3年前からイギリス住まいの両親の寝室を、先月、突然離婚して実家に戻ってくることになった祐が、リフォームした部屋だった。
…余談だが、オレや弟達が祐の離婚を知らされたのは、リフォーム業者が入る前日のことだ。──このエピソードだけでも、オレ達“弟”にとって、祐がどういう“兄”なのか、簡単に想像がつくのではないだろうか。
まあ、そんな訳で、大学進学を機に家を出ていた久我原家長男の引っ越しが無事に終わった昨夜は、久しぶりに兄弟全員(ちなみに男ばかり四人だ)で蕎麦を食べた後、祐に誘われ、二人で軽く酒盛りをしていたのだ。
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