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scene:07《鳴かぬ蛍が身を焦がす》
バスルームに入れば、中は、いわゆるユニットバスとは違い、浴室と洗面所がガラス戸で区切られた、広く快適な造りになっていた。
雨に濡れ、わずかに重くなった服を脱ぎ、浴室に入る。レバーを調節し、頭から熱いシャワーを浴びても──不思議と、オレの心は凪いだままだった。
「………」
オレを抱き締めた祐の鼓動を、思う。
祐と違い、緊張も、鼓動の高まりも感じていない自分が、何となく申し訳ないような気分になる。
──これから祐に抱かれるということにも、あまり現実味を感じないからか?
「…アイツ、本当にしたいのかな」
呟きは、シャワーの音にかき消される。
肺がひしゃげるような、深いため息をつき、シャワーのレバーを戻す。…ガラス戸を開けて浴室を出れば、熱めのシャワーを長く浴びすぎて軽く逆上せたのか、喉の渇きを感じた。
やわらかなバスローブを身に纏い、ふと、鏡を見れば、シャワーの湯気でうっすらと輪郭の曇った鏡の中、どこか心もとない目をした自分がいる。
「───」
何となく、見たくなかったものを見てしまったような気がして、オレは鏡から目をそむけると、バスルームを出た。
先ほどよりも強くなった喉の渇きに、オレはすぐさま、備え付けの冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出す。
キャップを開けようとしたところで、背後から、腕を強く引かれた。
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