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第7話
古びた狭い小さな家だ。
カビの生えたような特有の臭いに混じって、不思議な臭いがする。
これは何の臭いだろう。
涼介はキッチンに入ると、冷蔵庫を開けた。
すぐにそれを閉じると、俺を振り返る。
「大人しく帰れ」
「無駄だ。契約を取れないと、帰れない」
「リーマンかよ」
「リーマンとは、なんだ」
俺はメモを取り出す。
「会社員! 社会人ってこと!」
「『社会』とは、人間の行う共同生活のことだ。社会人とは、人間全般のことを言うのではないのか? そこにまた、何かの区別でもあるのか?」
返事がない。
俺が顔を上げると、妙な臭いのするチューブを、涼介は握りしめていた。
「さっさと帰らねぇと、このにんにくチューブをぶっかけるぞ!」
「やめろ!」
キャップを開けただけで、あたりに妙に味付けされたような、ちょっとおかしなにんにく臭が広がる。
「そんなもん、悪魔じゃなくたって、人間でもぶっかけられたら嫌だろうが!」
「うるせー、この際そんなことはどっちだっていいわ、とっとと出て行け!」
「くっそ」
立ち去れと言われたら、立ち去らねばならない。
別に契約が成立しているわけじゃないから、まだ完全に言うことをきく必要もないんだけど!
「分かったよ、分かった!」
俺は追い立てられるまま二階に駆け上がると、窓の桟に手をかけた。
「今日のところは退散しよう。だけど契約してもらうまでは、あきらめないからな!」
涼介の目は、にんにくチューブを握りしめたまま、再び俺をにらんだ。
挨拶代わりに、チッと舌打ちしておく。
どうせ人間ごときが、俺さまの相手ではない。
涼介はピシャリと窓を閉める。
俺は次の作戦を考え始めた。
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