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顔を上げると、見覚えがあった。隣の家の男の人で間違いない。
「あ、こんばんは」
「こいつ、どうしたんですか?」
「私に喧嘩を売ってきたかと思ったら倒れたんです」
「………」
「………」
「喧嘩?」と首を捻った。それから、「谷」を何度も言ってゆする。
彼が救急車を呼ぶと、風の様に谷という人は運ばれて行ってしまった。
なんだったんだろう。死んでたらどうしよう。
口論の途中だったから言い足りなくて化けてでてきたらどうしよう。
私のドアの前にお花を置かれても困るし。
なにもないことをただ、祈った。
私の足元に紙袋がひとつ落ちていて、コロンと白いプリンが顔を出していた。谷という人の忘れ物、軽いのにすごく重たく感じてしまった。
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