tapiocapudding

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だけど、恋は恋でも片思いだった。 彼の愛情は、私に向けられることなんかなくて、遠くに住む彼女に注がれ続けていたのだから。 だからか、一日の中に彼を見つける数秒は特別過ぎて。 呼吸のありがたみを体内から感謝してしまえる程。 うん、すごく好きだった。 彼を見た最後の日、「じゃあ」って言って、どこに行くのかさえ教えてくれなかった。 代わりにその彼女が引越しの手伝いに来てて、「また会えたら」って私に言ってくれた。 そうして、恋なんてしてなかったみたいに、彼なんか存在しなかったみたいに消えてしまった。 それでも、たまに思いだしてしまう。 たぶん、きっと、叶わなかったからかもしれない。 小さな小さな片思いは、空中分離して空に溶けた。
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