bring up

3/24
前へ
/687ページ
次へ
後ろを歩いてる人が、私にぶつかる。 「こんなところで、立ち止まらないでよ」 「ごめんなさい」 だけど、進むことが出来なかった。信号が点滅を始めて、ようやく私は走った。 その人は私が渡り切ったところで、次の信号が青になるのを待っていた。私は、薬局に行くはずだったのに、身体を反転させその場に留まってしまった。 何台も車が目の前を行きかう。横目でもう一度確かめる。ああ、やっぱり彼だと確信した。 「水城(ミズシロ)さん」 呼びかけると私に顔を向けた。ぺこりと小さなお辞儀をした。控えめな態度も変わっていない。長めの黒い前髪も、筋の通った鼻も、細身の身体も。 私の好きだった、前の家のお隣さんだった。
/687ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加