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「水城さん」
「はい?」
「信号、赤になりますよ。渡らないんですか?」
ピコピコと青の信号が点滅して走り出す人を、まるで他人ごとのように一瞥した。
「水谷さんは、進まないんですか?」
「え?」
「進まないんですか?」
「進む」
呟いてから、かぶりを振った。
「私、本当は、こっちに行きたいんじゃないんです」
「はい」
「あっちから、こっちに渡って来たんです。そしたら、水城さんを見つけてしまったので、また、こっちを振り返ってしまっただけなんです。こっちに進んでしまったら、戻ることになってしまうんです」
「そうですか」
「戻ってしまうんです」
「はあ」
「戻ってはいけないんです」
「戻ることは悪いことみたいですね」
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