入院してみて三日目、冷静になって我を振り返る

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入院してみて三日目、冷静になって我を振り返る

体の左半分が麻痺していて、力が入らない。 血液をサラサラにするという点滴と一日中繋がって、他にも数個点滴されてだんだん歯茎がボヨンとむくんできた。歯磨きすると血が出る。 精神科で処方されてる薬は入院している病院でカバー出来るとのこと。そこはホッとした。その薬がないと夜眠れないからだ。 歩けるけれど、フラフラする。 毎日血糖値をはかられるので、痛くはないがプチっと指を刺されるのは憂鬱だった。 トイレにいけるけれど、用を足そうと着ているものをずり下げるのに左手がうまく動かずもたもたして、焦る。用を足し終わっても、今度はずり上げるのに一苦労、最初は看護師さんの手を借りた。 一度トイレの中で頭を足元まで屈めて、前のめりに転んで大騒ぎになった。排泄するばかりになってトイレの便座に落ち着くまで、看護師さんの見守りがつくようになった。 転ぶと自力で立てないからだ。 あまり嬉しくない。家族にだって用を足す姿なんて見せたことないもの。 車イスでトイレに運んでもらおうとも、早め早めに尿意を感じたらすぐナースコールをした方がいいと学んだ。遠慮すると後で焦ってかえって危ない。体がしっかりするまでは遠慮しない方がいい。看護師さん達も、万事心得ている。 育児家事、家庭の切り盛りをしてきた私が赤ん坊のように世話されるなんて…と、ガックリ来たが、そういうプライドは今必要ないんだと悟った。 看護師さんは若くても皆心得ている。プロだもん。全部お任せする心境になるまで数日かかったけれど、お任せすると気が楽になった。 病室は、手術室のすぐそばにあって、部屋の仕切りはカーテン。24時間見守りが必要な患者ばかりがいるフロアのようだ。私は自分では重篤な患者という自覚がないのでそんなにヤバイのか自分はと驚いた。酸素吸入や、他、何か知らない機械とすぐ繋げるように、予めベッドのそばに作り付けになっている。 ベッドは角度が自動で変えられる。 同フロアに何人か患者さんがいるが、皆さん静かで、粛々と看護師さんのケアを受けている。ぺちゃくちゃしゃべったり、点滴のパックが何か知りたがる元気があるのは私くらいだ。 男性の看護師さんで詳しく説明してくれる人がいて、嬉しかった。 窓の外が見たいと言うと、動いてはいけないからベッドからでてはいけませんよ、とさとされた。 トイレで転んでからは特に。 食事はベッドの上で食べた。 そも、私は普段畳に布団の人間で、目茶苦茶慣れなかったがベッドから動けないので、仕方なし。 シャワー室は私のいるフロアと同じ階の少し離れたところにあって、そこまで車イスでつれていってもらう。 シャワー室には、入浴介護用の椅子があって、暫く座ったままシャワーを浴びた。付き添いの看護師さんは、濡れない素材のピンクエプロンを着用。可愛かった。 点滴は、チューブの途中でクリップで押さえてチューブをはずし、針の刺さっている部分はサランラップのようなラップで保護して貰った。 最初気はずかしくて、上からお湯を浴びるだけだった私に、看護師さんがニコニコテキパキ 「オマタも洗いませんか?」 「おしりも洗いませんか?」 「背中洗いましょうか?」 と声をかけてくれて、吹っ切れた。上手く声掛してくる看護師さんに、気まずい患者の心理もわかってるんだなあと感心した。 このフロアは患者さんの入れ替えが激しく、いろんな患者さんがはいっては出ていった。皆私より年配の人のようだった。 隣にすごくいたがる患者さんが入ってきて、申し訳なさそうにイタイイタイと言っていた。 「いたいときは遠慮なくいってくださいね、私達はそのお世話をしてお給料もらってるんですから」 看護師さんがそう言った。いや、お金もらったって気難しくなってる患者さんを安心させるお世話をするのは大変だぞ、貴方たち凄いなあとわたしは思った。 ある日の夜、いたがる患者さんが物凄くいたがって助けて!とパニックになって、だいじょうぶですか?と声をかけたら、痛みをどうにかしてくれないとあんたを祟ってやる!と怒鳴られたことがある。そうだよな、こんな病室にいたら不安だよなと、うんうんと聞いた。カーテンの向こうのその人の顔は一度も見たことがない。声の感じで私より年配なのがわかった。 やがて看護師さんの会話から、その人が薬の作用でひどい便秘になり、肛門の辺りに固い便か溜まりここで取り出す、というのがわかった。 暫くして異臭がした。うへぇ!って思ったけど布団を被って我慢した。 その病室にはわたしも数日しかいなかった。 あることがあってから、私も病室をうつったのだ。 あること、というのが、また新しく入った珍しく若い患者さんが、自分の思い通りにしようと物凄く大声でわめき散らして看護師さん達ももて余しているのを見て、腹が立って私がブチきれたのだ。主治医の先生がそのくらい元気ならここにいなくても、と言うことになったのかもしれない。 でも、移った先の病室は凄かった。 寝たきりの高齢な患者さんばかりいる病室だったのだ。皆ひっきりなしに看護師さんを呼んで何かしら事件があった。 ナースコールの音と、人の出入りする音と、一斉に紙おむつを替えるときの臭いで、全然落ち着かなかった。 この病室も、あまり長くは居ないとのこと。それだけがほっとすることだった。
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