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映画
コッ…コッ…コッ…
ほの暗いトンネルに靴音が響く。
トンネルの中程に男が一人立っている。
「遅かったな…ブツは?」
男は俺に向かって手を差し出した。
「これだ…」
俺は持って来た包みを渡した。
男は包みを乱暴に開けると顔色が変わった。
「な、何だこれはっ!」
「見ての通り、LPレコードだ
懐かしいだろ?」
「ふざけるなっ!!
石板はどこだ!」
この男、歴史的な遺物を闇で取引するブローカーだ。
俺は潜入捜査でこの男を割り出した。
「ブッ殺す!」
男は懐から銃を取り出し俺に向けた。
「そんなもんで…
この金さんの桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろっ!!」
俺は上着を男に投げつけ、もろ肌脱いだ。
「カッートッ!!」
監督のオーケーが出る。
次のシーンまで休憩だ。
今撮っているのは、金さんの子孫が潜入捜査官として活躍する『遠山の金さん』の現代版映画。
時代劇の様に勧善懲悪なストーリーは、ワンパターンで何回も見てると飽きるが、一回限りの映画ならある意味安心して見られる。
「ところで、何で金さんなんですか?」
「昭和の頃は、どの局でも一つは時代劇が有っただろ…
暴れん坊や仕事人や桃太郎や…
中でも金さんが好きだったんだ」
監督は大の時代劇ファンであった。
「次のシーン行くぞ!」
監督がメガホンを取る。
「この金さんの桜吹雪、見忘れたとは言わせねぇぞ!!」
end
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