映画

1/2
前へ
/756ページ
次へ

映画

コッ…コッ…コッ… ほの暗いトンネルに靴音が響く。 トンネルの中程に男が一人立っている。 「遅かったな…ブツは?」 男は俺に向かって手を差し出した。 「これだ…」 俺は持って来た包みを渡した。 男は包みを乱暴に開けると顔色が変わった。 「な、何だこれはっ!」 「見ての通り、LPレコードだ 懐かしいだろ?」 「ふざけるなっ!! 石板はどこだ!」 この男、歴史的な遺物を闇で取引するブローカーだ。 俺は潜入捜査でこの男を割り出した。 「ブッ殺す!」 男は懐から銃を取り出し俺に向けた。 「そんなもんで… この金さんの桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろっ!!」 俺は上着を男に投げつけ、もろ肌脱いだ。 「カッートッ!!」 監督のオーケーが出る。 次のシーンまで休憩だ。 今撮っているのは、金さんの子孫が潜入捜査官として活躍する『遠山の金さん』の現代版映画。 時代劇の様に勧善懲悪なストーリーは、ワンパターンで何回も見てると飽きるが、一回限りの映画ならある意味安心して見られる。 「ところで、何で金さんなんですか?」 「昭和の頃は、どの局でも一つは時代劇が有っただろ… 暴れん坊や仕事人や桃太郎や… 中でも金さんが好きだったんだ」 監督は大の時代劇ファンであった。 「次のシーン行くぞ!」 監督がメガホンを取る。 「この金さんの桜吹雪、見忘れたとは言わせねぇぞ!!」 end
/756ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加