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雨が窓を濡らす
焦点の定まらない目で窓の外の世界を眺める。
起き上がる気力も体力もなくただ、ベッドの上でボーッ眺めているだけだった。
高層階からライトアップされた街並みが見渡す限り広がり夜景が綺麗で楽しめる筈なのに、彼は静かに音も声も無く一筋の涙が横に滑るように流れ落ちた。
重い身体をゆっくりと何とか起こすと、身体からシーツが滑り落ちると白い肌が露になる
無理に起こした身体が辛い
身体の奥から伝い流れる感覚が不快さと屈辱感でいっぱいだった。あまりにも不快感で気持ち悪さが込み上げてきて、早く何とかしたくて重い身体に鞭を打つ様にバスルームに向かいシャワーを頭から被る
髪に付いてカピカピになったソレも、
身体に付いたソレも、
奥に放たれたソレも、
全てを湯で洗い流す。
シャワーヘッドから流れ落ちるお湯が排水溝へと吸い込まれる様を感情が抜け落ちた瞳で眺めていた。
────────────────
「直人さん。少しいいですか?」
智景の少し心配そうな色の瞳が直人の顔を覗き込む。少し躊躇いながら直人に尋ねた智景の優しい声が鼓膜を刺激する
ふと顔を上げた直人は智景を見た。
「葵さんの事、何か分かりましたか?」
眉間に皺を寄せて智景を凝視する直人は困惑した。智景と直人の間には葵の事は詳しく話していなかったし、葵に対して好意がある。失踪して探している事しか智景には伝えて居ない。
智景は葵の事は知人でもない。そんな二人の間では葵の事を話題にしたり、進展とかを話したりする仲では無い。
智景から初めて、葵の事を口にしてきたのだ。
最近、智景は直人の部屋に来る回数が多くなったせいかと思考の端の方で浮かび上がってきて、直人は溜息を零して自己完結で終わらそうとする
渡されたコップを直人は受け取りコップの中身を見るとただのお茶だった。
コップの中で揺れるお茶の水面を視界の端に追いやって、智景の言葉に否定も肯定もない曖昧な感情を返す
智景からの好意を受け止めきれずに居る。
受け止めきれずいるくせに突き放せない自分も居て
似もしないのに智景を葵と重ねている最低な事をしているのは重々承知。
直人と智景。
そんな歪な二人の関係だ。
「直人さん、無理をしないで下さい。
僕も葵さん探し手伝いたくて、勝手にやっていました」
そんな思いがけない智景からの言葉に直人は驚きのあまり目を見開くと智景はもじもじとする動きとり、指先に視線を落とすのを直人は見る
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