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「そうか・・・・彼女もまた生き残りだったのですね。」
「そうじゃな」
ばあさんの言葉にしばらくだまりこんでから、わたしは再び言葉を続けた。
「あのね、田畑さん。率直にお聞きしますが」
「なんじゃろ」
改まっていう私に、ばあさんはいさささ面食らったように見えた。
私はそれには構わず、口を開いた。
「あなたは、私の父が本当に池田家の人たちを殺害したのだと思いますか?」
「いいや、思わんよ」
ばあさんは当然というように即答した。
そして、今度は私が戸惑う番だった。
「でも、現場からは父の指紋のついたナイフもでていて・・・・」
「それはそうかもしれんが。」
ばあさんは首をふった。
「わしにはどうしても、信じられんのじゃ。あんたのお父さんはしっかりした人じゃった。間違えてもお金のためなんかに人様を殺めるような人間じゃなかったんじゃ」
「・・・・・」
私はばあさんの言葉になにも答えられなかった。
なぜなら、私は―父親を幼いころに収監された私はー父のことなどなに一つ知らなかったからだ。
だから私は、返事の代わりに彼女にこう尋ねた。
ねえ田畑さん、この家の前の時計は壊れてしまってはいませんでしたか、と。
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