父と私

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「あった、これじゃ。引っ越しの日のことが書いとる。誰に何をやったか、記録しておいたんじゃよ。これによると、ほうほう・・・・確かに池田のせがれにツボをやったし、時計をいただいとるね。この日に家に来てくれて人には、なにかしらあげたわ。」 私はばあさんのゆびさすページを覗き込んだ。 なるほど、そこには松本―絵画、佐竹―書籍、着物二点、池田―ツボ、ペーパークリップ、筆記ペン、貯金箱、田中ー食器というようなことが事細かに書いてある。 私はばあさんの几帳面さに感謝しながらも、ある奇妙な記載に気がついた。 あげたものの名前が書いてあるのに、上げた先の名前が?になっているものがあったのだ。 「ねえ、田畑さん。この?マークはなんなの。あげた先が分からないということ?」 「そうなんじゃよ」 ばあさんはいぶかしげに言った。 「気がついたら無くなっとったものがいくつかあってな。たとえば、ちょうどこの写真にうつっとる箪笥の上に、飾っとった人形なんかもそうなんじゃが・・・・。その先が分からんもんで一応?とかいといたんじゃよ」
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