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ちろり。ほんの小さな三角形なのに、真っ赤な存在を主張する紙切れ。
アパートの入口、集合ポスト。いつものように通り過ぎようとした時、無機質な銀色の箱から紙切れがのぞいているのを見つけてしまった。
前にこの蓋を開けたのはいつだったか。無意識にため息がこぼれる。昨日、一昨日、一昨昨日……少なくとも一週間は前だ。変わり映えしない帰宅風景が浮かんで、記憶は途中で曖昧になる。
左手には重い鞄とコンビニの袋。右手にはキーケース。
このまま戻ろうか。疲れに負けて思ったが、気づいてしまった以上無視するのはいただけない。それに万が一ポストの中身が一杯だったら迷惑だろう。
キーケースをポケットに突っ込んでポストを開けると、ピザ屋、ヨガスタジオ、ファストフード店、ネット回線。見慣れた広告がふわりと表を向けてきた。それらを取り除いて銀色の内壁が見えた時、一通の白い封筒が現れた。
何だろう。
『木崎 辰人様』丁寧で少しだけ丸みを帯びた宛名の文字は、どことなく見覚えがある。
――珍しい。何でわざわざ。
裏返して送り主を見たと同時にお腹が鳴った。お前に返事は求めてないよ。わがままな身体に文句を言っても空腹が収まることはなく、俺は諦めてエレベーターに乗り込んだ。あとでゆっくり読めばいいか。
部屋に着いて鞄を下ろすと、重たい音がしてまたため息が落ちる。コンビニ弁当と紙の束をテーブルに置いて、ジャケットを脱いでハンガーにかける。部屋着に着替えて座り込んで、とりあえず腹に弁当を詰め込んだ。
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