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 ――夢じゃなかった。  真っ白の写真を手にして、俺は息を吐いた。   一晩越して、午前十時過ぎ。色味を増した朝日にようやく二度寝を脱した俺は、真っ先に写真を確認した。  昨日の夜。数秒後に復活した思考で隅から隅まで写真を眺めたが、何度見てもそこには何も映っていなかった。  別の写真を入れようとして、失敗作と間違ったのかもしれない。はたまた心霊写真で、俺が見えてないだけとか。いやそれだと心霊写真の意味がない。ていうか意味とかあるのか。あるいは新手のDM。何の宣伝にもなっちゃいないけど。  何のつもりだよ、こんなもの送りつけて。少し苛立ちながらも送り主を確認しようと封筒を見ると――写真と同じように、表も裏も真っ白だった。宛名も、差出人もない。  最初から。いや、そんなことはない。  そんな不審な手紙だったら、ポストから出した時点で開けている。俺宛ての手紙だと、俺が確認したじゃないか。それに確かに何か思って、そうだ、珍しいと思ったところでお腹が鳴って。だから少なくとも数十分前まではここには文字が書かれていた、はず。だと思う、けど。  本当に?  たどった記憶は疲労に塗りつぶされて、改めて問われると不安になる程度の精度しかない。いやでも、これはさすがに。  木崎辰人、二十二歳。就活をなんとか乗り越えて今は社会人一年生。毎日怒られるは残業があるわで、最近は休みの日に休むことしかできていない。早く一人前に仕事ができるようになればいいのだろうが、なかなか思うようにはいかない。誕生日はそういえば来月。しかし友人とはろくに連絡も取れていないから、たぶん何事もなく終わるのだろう。祝ってくれるような同僚も先輩もいない。というか祝われてもあまり嬉しくない。  頭がおかしいのかもしれないと疑ったが自分の現状は羅列できて、電話番号やアドレスまで思い出してみたが、スマホに入っている情報とも相違なかった。
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