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これじゃなくたってそうなのだ。
仕事のある日は何もできない。ご飯を食べてお風呂に入って、最低限の家事をして終わり。やる気があれば作れる時間はあるのだろうとは思う。寝転んだりぼうっとしたり、何とはなしにスマホを眺めたり。そういう時間を変換できる。でも結局、まあいいか、で終いにしてしまうのだ。休日だって大差ない。
生活することだけで毎日が過ぎていく。良くはないと思いはするが、でもそれだけ。
こんなことを考える思考すら上手くまとまらなくて、今だって何の解決法も思いついていない。
出かけたため息を寸でのところで飲み込んだ。食べ終わった食器を洗って洗濯機に衣類を放り込んで、ついでに風呂掃除をする。掃除機をかけて洗濯を干していると、ベランダから郵便局のバイクが見えた。
そうだ、住所。
何で最初に気づかなかったんだろう。住所がないと手紙は出せない。この住所を知っているのは親くらいで、そうでなければ誰かから住所を聞かれただろうか。
ない。と思うけど。部屋に戻ってスマホを片手に、もう片手で何の気なしに手紙を取ってしまった。相変わらず愛想のない表面から目をそらして、SNS、メッセージアプリ、着信履歴。思いつく限りを辿ろうとして数秒、必要がないそれらに画面を落とした。
何もない。友だちとも親とも、連絡を取っていないことは俺が一番良く知っている。あっても会社とのやりとりが並ぶだけだ。
ため息が風に流れて、振り向くと開け放したままのガラス戸。しまった。慌てて手紙とスマホをポケットに突っ込んでベランダに戻って、途中だった洗濯物に手を伸ばす。
ハンガーを等間隔にかけて少しだけ満足していると、近くの公園から子どもがはしゃぐ声が聞こえる。柵から顔を出して見下ろすと、ジャージを着た学生の集団が歩いていく。どの声もことさら楽しそうで、見えない表情まで分かる気がした。
遊ぶ友だちも一緒に部活をやる仲間も、どちらにせよ何にせよ、周りにそういう人がいるのはいい。
並んだシャツとタオルが空気をはらんで、気持ちよさそうに揺れる。
ほんの少し前まではあの子たちと同じところにいた気がするのに、今はこのベランダと地面ほどの、それ以上の距離を感じる。
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